当記事は「シリーズ記事」になります。
   この『癌と炎症』シリーズは『癌と炎症の関係』についてご理解して頂くために作成したものです。


    癌と炎症 ① (本記事
     【 癌は「炎症」と深く関係しており、『慢性炎症』は 癌化 の原因となる!
       『慢性炎症』から 癌に至る過程、『慢性炎症』が 癌化 を引き起こす機序!:Nature 】


    癌と炎症 ②
     【 炎症性サイトカイン「IL-6」は 癌細胞を活性化し、
       増殖・浸潤・転移・血管新生・癌幹細胞・悪液質などを促進する!:
       自治医科大学 医学部 西野宏 教授 】


    癌と炎症 ③
     【 癌細胞は「炎症性サイトカイン」を大量に放出して自身の「炎症」を促進し、
       増殖するのに「有利な環境」をつくり出す:京都大学名誉教授 和田洋巳 医学博士 】


    癌と炎症 ④
     【 癌細胞は「炎症」しており、癌は『炎症の塊』である!
       癌の「炎症」の悪化は、癌の増殖・悪性化・転移を促進する!:
       京都大学名誉教授 和田洋巳 医学博士 】


    癌と炎症 ⑤ 癌の炎症を促進して悪化させる食事
     【 糖質 と ω6系不飽和脂肪酸 の摂取は 癌の炎症を促進する作用があるため、
       癌の増殖・悪性化・浸潤・転移を進行させる 】


    癌と炎症 ⑥ 酸化ストレス・炎症体質
     【 活性酸素は炎症をつくり、炎症を促進して悪化させる:
       炎症から活性酸素が産生され、さらに炎症をつくり、炎症を悪化させていく 】


    癌と炎症 ⑦ ブドウ糖は「酸化ストレス」を高める - 福田一典 医師
     【 高血糖は「酸化ストレス」と「炎症反応」を亢進する!:
       炎症では「活性酸素の産生量」が増える! 】



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 当記事は『癌と炎症』シリーズの「癌と炎症 ①」です。
 この『癌と炎症』シリーズの記事は『癌と炎症の関係』についてご理解して頂くためのものです。

 「癌と炎症 ①」では、次の2つの記事をご紹介させて頂きます。

    ここまでわかった、癌と慢性炎症
    慢性炎症と癌との関わり

 この2つの記事は “類似する内容” を含みますが、癌と『慢性炎症』の関係を簡潔にまとめてくださっています。
 『慢性炎症』は 癌と深く関わっており、「癌化」の原因となることがお分かり頂けると思います。
 (この2つの記事は共に「がん」と表記していますが、平仮名だと読み難いので「癌」に変更しました


 『癌と炎症』シリーズ 1作目の「癌と炎症 ①」では、まずは、医学が『癌と炎症の関係』について、どのような経緯で発見していったのか、また『慢性炎症』が どのような機序を経て「癌化」に進んでいくのか、この2つの記事を通して知って頂きたいと思います。
 『慢性炎症』が「癌化」の原因となることは、科学的医学的に立証されています。
 「炎症」が「癌化」を引き起こす原因となることは、正式に明らかとなっているのです。
 『慢性炎症』や「炎症」を甘く見ることは危険であり、癌の原因にもなる『慢性炎症』や「炎症」を改善することはとても大事なことなのです。

 そして、癌細胞自体が「炎症」しており、癌は『炎症の塊』になっています。
 癌は自身の「炎症」を促進し、自らが増殖するのに「有利な環境」をつくり出しています。つまり、癌の「炎症」が促進して悪化すると、癌の増殖悪性化転移がどんどん進行することになるのです。
 ここは「癌と炎症 ②」と「癌と炎症 ③」と「癌と炎症 ④」にて触れていきます。

 この『癌と炎症の関係』は、癌患者さんが知っておくべき重要な知識です。
 『慢性炎症』は「癌化」の原因となり、癌細胞で起こっている「炎症」が悪化すると、癌の増殖悪性化転移進行がどんどん促進される‥、つまり、癌患者さんは、自身の身体で起こっている『慢性炎症』を改善して さらなる「癌化」を防ぎ、自身の癌で起こっている「炎症」を改善して 癌の増殖悪性化転移進行を抑制することが大事なのです。癌治療において、この『慢性炎症』や「炎症」の改善は重要な治療となります。


 まず、この「癌と炎症 ①」にて、『慢性炎症』が「癌化」の原因となることをご理解してください。
 よろしくお願いします m(__)m

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 ここまでわかった、癌と慢性炎症
 【「natureasia.com」
より 】 〔Nature 2010年9月9日号サイエンスライター 西村尚子


 経験的に、癌と『慢性炎症』との間には、関連性があることが知られてきた。
 例えば、C型肝炎ウイルス感染と肝細胞癌、ピロリ菌感染と胃癌などである。
 これまでは、主に疫学調査や病理学的側面から研究されてきたが、最近になって分子レベルでの解明が進んでいる。

 「炎症」に関連した、どのような分子が「癌化」に寄与するのか。
 研究成果は、新たな治療や創薬にどのように応用されうるのか。
 癌の「微小環境」「シグナル伝達系」「エピジェネティクス」といった観点から『炎症と癌の関連』を考察する。



疫学的に知られていた、『慢性炎症』と 癌との関係

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 最新の研究により、長期間、体内でくすぶり続ける『慢性炎症』が、
 メタボリックシンドローム自己免疫疾患といった様々な疾患に共通する基盤病態となっていることがわかってきた。

 例えば、肥満の状態では、肥大した「脂肪細胞」から分泌される TNF-αPAI-1HB-EGF といった生理活性物質が、
 血管や臓器に様々な「炎症」を引き起こすことでメタボリックシンドロームを発症させる、といった成果が報告され、
 注目が集まっている。


 癌については、古くから感染症などによる「炎症」が関与していることが疫学的に知られてきた。
 18世紀には、すでに、イギリスの煙突掃除人に陰嚢皮膚癌が多いことが報告され、
 原因として「スス」に含まれる物質による「炎症」が疑われていた。

 19世紀に入ると、ドイツの「ウィルヒョー」が、

    癌は、何らかの刺激によって組織が損傷し、その「局所炎症」から生じる。

 とする説を提唱。

 20世紀初頭には「ウィルヒョー」に学んだ日本の「山極勝三郎」が、
 ウサギの耳に「コールタール」を塗り続けて「炎症」を引き起こすことで「人工的に癌を発症できる」ことを示した。

 その後、アメリカでは「局所炎症」から抽出した浸出液に、
 腫瘍形成につながる「細胞増殖作用」があることなども報告された。

 ただし、これらは病理学者や生化学者が断片的に研究を行なった結果であり、
 確固たる概念としては確立されてこなかった。


 ところが、この5~6年で、
 C型肝炎ウイルス感染と肝臓癌、ヒトパピローマウイルス感染と子宮頸癌、
 ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染と胃癌、住血吸虫感染と膀胱癌といったように、
 癌の症例の一部に感染症が関与していること、
 慢性潰瘍性大腸炎やクローン病と大腸癌のように、自己免疫疾患による「炎症」の一部も「発癌」につながること、
 胃液の逆流による逆流性食道炎のような単純な「炎症」でも、癌(食道癌)を発症させ得ることなどが、
 分子レベルで明らかになってきた。



『慢性炎症』とは?

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図1 慢性炎症を基盤とする様々な病態
出典実験医学 Vol.28 No11 2010 p.1681 の概念 図1 を一部改変


 「炎症」の原因は、感染、外傷、毒性物質の暴露、自己免疫の破綻など様々である。
 「炎症」と聞くと、真っ赤に腫れた患部や発熱を思い浮かべるが、
 このような「炎症」の多くは『急性炎症』で、比較的短期間に「炎症反応」が沈静化する点で『慢性炎症』と区別される。

 古典的には “発赤、発熱、腫脹、疼痛、組織の機能不全を兆候とする病態” が『急性炎症』だとされている。
 ただし、臨床の場で『急性炎症』と『慢性炎症』とを明確に区別する定義はない。

 例えば「肝炎」では、便宜上、数ヵ月で病状が収束するものを『急性肝炎』とし、
 6ヵ月以上にわたって肝機能の異常が続く場合を『慢性肝炎』としているにすぎない。

 多くは「炎症」が数年以上にわたって続き、炎症部位の線維化(組織リモデリング)、血管の新生(血管新生)、
 特定の免疫細胞の集積などが顕著な病態を『慢性炎症』としているようである。

 このように、原因も、病態も、「炎症」の継続期間も様々な『慢性炎症』だが、
 一部に、特定の受容体を介した細胞間の相互作用、炎症性シグナル伝達経路の活性化、
 ある転写因子や遺伝子の発現誘導といった「共通の分子機構」が存在することが示唆され始めている。
 そして、こうした機構こそが「発癌」にも関与しているらしいのである。



微小環境と発癌

 『慢性炎症』の病変では、免疫細胞の浸潤、線維芽細胞の増殖、「血管新生」などが顕著にみられると述べたが、
 似たような状態が癌組織中でも認められる。
 これらは、癌の「微小環境」と呼ばれ、世界中で「発癌」との関わりが研究されている。

上記の「微小環境」というのは『腫瘍の周囲に存在して栄養を送っている正常な細胞分子血管などのこと』です。腫瘍の存在によって「微小環境」が変化することもあれば、「微小環境」によって腫瘍の増殖や拡大が影響を受けることもあります。いわゆる「微小環境」とは『癌細胞の外側周囲の微小な環境』のことですブログ管理人

 一般的な「炎症反応」には、腫瘍化を促す「向腫瘍作用」と逆の「抗腫瘍作用」の双方があるとされるが、
 癌や「癌化」に向かう「微小環境」は「向腫瘍作用」に傾いていることが多いと考えられる。

 癌の「微小環境」中では、まず「炎症性サイトカイン」の代表格である TNF-α が分泌される。
 この TNF-α のシグナルが、「インターロイキン」などの他の「サイトカイン」の分泌、
 「発癌」を促すことが知られる転写因子 NF-κB の活性化、
 炎症性プロスタグランジン合成酵素 COX-2 の発現などを誘導し、
 多様な「癌化」のスイッチをオンにするらしいのである。

 さらに「微小環境」中では、癌細胞自身が分泌する様々な因子によって、
 「マクロファージ」や 未熟な骨髄細胞などが集められ、
 こうした免疫細胞が、癌細胞の浸潤悪性化転移の誘導に関与していることも明らかになってきている。

    ただし、癌の「微小環境」は必ずしも一様ではなく、それが研究を一筋縄ではいかないものにしています。
     例えば、腎臓癌では血管が豊富、膵臓癌は線維芽細胞が多くて硬いといったような多様性が見られ、
     分泌される因子にも、かなりの違いがあるのです。


 癌の「微小環境」について研究している、
 東京大学大学院 医学系研究科 病因・病理学専攻 分子病理学の「宮園浩平」教授は、そう語る。

 宮園教授は、悪性度の高い脳腫瘍であるグリオーマの「微小環境」を研究対象にしており、
 グリオーマ細胞自身が分泌する TGF-β という「サイトカイン」の作用についての研究を続けている。

 もともと、TGF-β は、細胞増殖を抑制する「腫瘍抑制因子」として同定されたが、
 後に、上皮系の細胞を間葉系の細胞に分化転換させる作用(EMT)を持つことや、
 グリオーマなどの非上皮系の癌に対して「向腫瘍作用」を持つことなども明らかにされた。

 ごく最近になって、宮園教授は、グリオーマにおいて TGF- β のシグナルを抑えると、
 癌の親玉である「癌幹細胞」をも含む腫瘍細胞群を分化の方向に導けることを突き止めた。
 つまり、癌の「微小環境」を操作することで、癌の勢いを沈静化できることを示したのである。

    すでに、TGF- β 遮断薬を癌治療に使おうとの試みがあり、
     現在、ドイツの製薬会社がグリオーマの治療薬として臨床試験中です。


 と話す宮園教授は、今後も、癌の「微小環境」におけるシグナル伝達の解明を進めたいとしている。



「メチル化」を経て「発癌」に至る仮説

 こうして、一部の『慢性炎症』が分子レベルで「発癌」を促すことが広く知られるようになってきたが、

   『慢性炎症』から癌に至る過程には、もう1つのステップが存在しているのではないか。

 と考える研究者たちがいる。

 「国立がん研究センター 研究所」発がん研究部の「牛島俊和」研究部長や、
 「東京慈恵会医科大学」皮膚科の「延山嘉眞」助教らである。

    もう1つのステップとは、遺伝子のエピジェネティックな制御が異常になることです。


 と、延山助教。

 エピジェネティクスとは、遺伝子の塩基配列の変化を伴わずに、後天的な修飾により遺伝子発現が制御されることを言う。
 例えば、DNA の特定の位置にあるシトシンにメチル基が付加される「メチル化」では、
 特定の遺伝子の発現が強力に抑制される。
 これまで、ピロリ菌については、牛島部長をはじめとする各国の研究者によって、
 感染によって引き起こされる慢性胃炎や胃癌で明らかな「メチル化」異常が生じていることが示されている。

    私が研究対象としているメラノーマと その前癌状態である日光角化症、
     及び、悪性末梢神経鞘腫瘍と その発生母地となる神経線維腫症1型でも、「メチル化」異常がみられます。


 と、延山助教。

 前癌状態と言える慢性胃炎、神経線維腫症1型は、いずれも『慢性炎症』を起こした状態で、
 病変中には リンパ球 などの免疫細胞が浸潤し、特定の「サイトカイン」が増えていると言う。

    特徴的なのは、IL-6、IL-1 β、TNF- α といった「発癌」に関与するとされる「サイトカイン」が、
     増えていることです。


 そう話す延山助教は、一部の特定の「サイトカイン」が「メチル化」の促進と関連しているのではないか、と考え、
 様々な実験を続けてきた。

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図2 正常細胞と癌細胞における「メチル化」の状態
出典医学のあゆみ Vol.224 No.9 p.741 図2

◆◆ 図2の解説
 正常細胞では、CGI のほとんどが非メチル化状態に、繰り返し配列では 高メチル化状態 に保たれている。
 一方、癌組織では、一部の CGI がメチル化され、繰り返し配列では 低メチル化状態 になるという異常が見られる。
◆◆


 生直後(出生直後)のヒトの遺伝子は、正常状態では、一部を除いて「メチル化」されていない、とされている。
 ただし、発現量が少ない遺伝子は「メチル化」されやすい傾向にあり、
 加齢に伴って、様々な遺伝子が「メチル化」されていくと推測される。
 そして、いったん「メチル化」された遺伝子は、その後の一生を通じて「メチル化」されたままだと考えられている。

 つまり、一度「メチル化」されると、その遺伝子は二度と発現できない状態に置かれることになる。
 したがって、もし、前述の前癌状態の『慢性炎症』病変において、
 いずれかの「サイトカイン」が「がん抑制遺伝子」の「メチル化」を促すとすれば、
 その細胞は極めて「癌化」しやすいと推測される。

    私は、IL-6 などの特定の「サイトカイン」により、「がん抑制遺伝子」を含む特定の遺伝子の発現が低下し、
     同時に「メチル化」を促す酵素(メチルトランスフェラーゼ)が活性化され、結果として「メチル化」も促される、
     との仮説を立てて実験を進めました。しかし、きれいに実証することはできませんでした。


 延山助教は、残念そうに、そう話す。



ピロリ菌と「メチル化」と胃癌

 延山助教は、ある偶然から牛島部長の研究室に出向し、癌とエピジェネティクスの異常について研究を始めた経緯を持つ。

 元上司である牛島部長は、一貫して、
 ピロリ菌感染によるエピジェネティクス異常と「癌化」についての研究を続けており、
 これまでに、感染を受けた胃の粘膜細胞では、
 「がん抑制遺伝子」として知られる p16、CDH1、LOX などで「メチル化」が誘導されることを実験で明らかにしてきた。

    スナネズミにピロリ菌を感染させると、DNA「メチル化」異常が誘発されます。
     したがって、明らかにピロリ菌感染が原因で「メチル化」異常が誘発されたことになります。
     私たちは、この時点でサイクロスポリンという薬剤を使って「炎症」を抑制すると、
     ピロリ菌の感染が続いているにもかかわらず、「メチル化」が強力に抑制されることを突き止めました。
     つまり、ピロリ菌自体ではなく、ピロリ菌感染による「炎症」のほうが、
     DNA「メチル化」異常誘発に重要であるということになります。


 と、牛島部長。

 ただし、牛島部長もまた、「炎症」がどのようにして「メチル化」を引き起こすのかについては未解明の部分が多いとし、
 次のように話す。

    ピロリ菌による『慢性炎症』では、単核球 という 白血球 が浸潤し、
     これが IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、TNF- α などの「サイトカイン」を出しています。
     こうした「サイトカイン」のいずれか、あるいは、特定のいくつかの組み合わせが、
     上皮に異常なシグナルを与え、エピジェネティック装置の異常を誘発し、
     「メチル化」を導いていると考えています。


 一般に「メチル化」の誘導には「メチルトランスフェラーゼ」が、
 直接 DNA に接近して「メチル化」を促す必要があるとされる。
 このためには「メチルトランスフェラーゼ」が過剰発現するか、
 DNA を「メチルトランスフェラーゼ」から遠ざけている因子(防御因子)が減少するかの、
 いずれかの状態が必要となる。

    これまでに、私たちは、ピロリ菌に感染しても「メチルトランスフェラーゼ」の発現は増えないことを、
     実験的に確認しています。

     原因は、防御因子が減少したか、
     あるいは「メチルトランスフェラーゼ」と防御因子とのバランスが標的遺伝子の近傍で崩れたか、
     のいずれかではないかと考えています。


 と、牛島部長。

 引き続き研究を進め、何とかして「メチル化」の誘導につなここまでわかった、
 癌と『慢性炎症』がる「炎症の成分」を突き止めたいとする牛島部長。

   炎症の)成分が特定できれば、「良性の炎症」と「悪性の炎症」を区別できますし、
    「悪性の炎症」のみを特異的に阻害する薬剤の開発や、
    「炎症」が無いのに「メチル化」が誘導されているタイプの癌の誘発機構の解明につながる研究も、
     展開できるはずです。


 と語る。

上記の、文が乱れている「引き続き研究を進め、何とかして「メチル化」の誘導につなここまでわかった、癌と『慢性炎症』がる「炎症の成分」を突き止めたいとする牛島部長。」というところは「元記事の原文のまま」です。文が乱れていて残念‥。
 まァ~、いわゆる、牛島部長さんは「引き続き研究を進め、何とかして、ここまでわかった「メチル化」の誘導につながる、癌と『慢性炎症』に関する「炎症の成分」を突き止めたい」と仰られているのでしょうブログ管理人




リンパ腫とも関連

 一方、「マイクロアレイ」を用いて、網羅的に「発癌に関わる SNPs(一塩基多型)」の解析を進める過程で、
 偶然にも『慢性炎症』に関与する遺伝子に行き当たった研究者もいる。
 「東京大学医学部附属病院」キャンサーボードの「小川誠司」特任准教授である。

 これまでの研究で、染色体の転座、遺伝子の欠損、
 遺伝子数のコピー異常などのゲノムの異常によって「癌化」が促進されることが知られてきたが、
 小川准教授は「アフィメトリクス社」などが販売している「SNP アレイ」を用いて、
 「癌細胞中の遺伝子コピー数の異常やアレル異常」を大規模かつ高精度に解析できるシステムを構築し、
 多種多様な癌について 6000例 を超える試料の解析を行なってきた。

    その結果、マルト(MALT)リンパ腫という悪性リンパ腫において、
     第6番染色体の端に位置する 143kb ほどが、
     2つのアレルで両方とも欠損する異常が極めて多いことがわかりました。
     その欠損領域にある重要な遺伝子を探索したところ、
     「炎症」の制御に関与するとされる「A20遺伝子」に行き当たったのです。


 と、小川特任准教授。

 マルト(MALT)リンパ腫は、消化管粘膜や腺組織に分布するリンパ組織中の「B細胞」が「癌化」するもので、
 ピロリ菌感染や、橋本病などの「自己免疫疾患」に伴う『慢性炎症』に合併して発症する、という特徴を持つ。
 つまり『慢性炎症』を基盤に発症する癌だと言え、
 ピロリ菌の除菌などによって『慢性炎症』をコントロールすることで、リンパ腫が自然に消滅することも多いと言う。

 「A20遺伝子」については「TNF- α が NF- κ B を活性化するためのシグナル伝達」を強力に遮断することで、
 「炎症シグナル」を抑制する機能を持つことがわかっている。

    直感的に、以下のようなストーリーが考えられます。
     『慢性炎症』は「炎症」のもとになる刺激があり、それを免疫応答で解除できない状態です。
     病変組織では、TNF- α などの「炎症性サイトカイン」が出されています。
     「A20タンパク質」は、このような「炎症部位」において TNF- α の刺激によってつくられ、
     TNF- α による「炎症性シグナル」を強力に遮断する酵素として働きます。
     しかし「A20」を欠損した細胞では、このような作用が機能せず、「炎症」は治まりません。
     さらに「炎症性シグナル」の下流で活性化される増殖因子によって細胞分裂が促進されることにより、
     その中で、さらに遺伝子に変異を起こすものが現われ、
     それが癌細胞へと姿を変えて腫瘍へと成長していくことになるわけです。


 と、小川特任准教授。

 現在、小川特任准教授は、広島大学の「本田浩章」教授と共同で、
 「A20遺伝子」を成体マウスの様々な臓器で特異的に失わせることのできる、
 「コンディショナル・ノックアウトマウス」の作製に成功しており、

    このようなマウスに人工的な「炎症刺激」を与えることによって、
     マルト(MALT)リンパ腫をはじめとするヒトのリンパ腫モデルを誘導することができるかどうか検討し、
     リンパ腫の発症と『慢性炎症』の因果関係を明らかにしたい。


 と語る。



新たな「パラダイムシフト」に向けて

 「炎症」も、癌も、生命現象の根幹に関わる生体反応だと言え、
 ともに、病理学、細胞学、生化学、分子生物学を経て、
 最近では、ゲノミクス、システムバイオロジーなどを取り入れながら研究が発展してきた。

 ただし、両者の研究は平行した2本の線のようで、互いに交わることはなかった。
 それが、ここへ来て急接近し、両者の架け橋となる研究が、あちこちで展開され始めている。
 得られた成果は、治療や創薬への直接的な応用が期待でき、癌大国日本の国民への恩恵は計り知れない。

 このような融合領域研究を推進し、医療に応用できる成果を得るには、
 研究者集団による新たな「パラダイムシフト」の確立と、政府による予算分配の工夫などが急務だろう。
 昨年来の事業仕分けで、科学研究予算は縮小の一途をたどっているが、
 優れた「目利き」によって有望な研究の芽が生かされるよう、切に望む。




 慢性炎症と癌との関わり
 【「モダンメディア 51巻 4号 2005」
より 】
  元国立がんセンター研究所 所長 髙山昭三   明治製菓株式会社 創薬研究部門 安福一惠


(1)はじめに

 1863年、ドイツの「ウイルヒョー」は、癌はある刺激により組織が損傷され、
 次いで起こる「炎症」の局所から発生する、という説を提唱した。
 組織細胞が損傷を受け、そのあと引き続いて起こった「炎症」から細胞増殖が誘起される、という考えは、
 慢性の「炎症細胞」から「細胞増殖促進因子」が放出され増殖する、という現在の知識に一致するもので、
 「ウイルヒョー」が近代病理学の開祖と崇められるゆえんである。

 「ウイルヒョー」のもとで研究した「山極勝三郎」は、帰国後、ウサギの耳に「コールタール」を塗布し、
 1915年、世界で初めて「人工癌」に成功した。
 この業績は世界の医学界から称賛された偉業であるが、すでに1908年『胃癌発生論』という大著を刊行し、
 胃癌と『慢性胃炎』の相関について、極めて造詣の深い論文を発表した。


 以来、病理学者を中心に、個々に臓器癌の発生と『慢性炎症』について研究されてきたが、
 1つの学問的体系を確立するまでには至らなかった。



(2)癌の発生要因の中で感染症の占める割合

 イギリスは伝統的に社会医学に関心の強い国である。
 1775年、「ポット」が煙突掃除人の陰嚢皮膚癌を報告し、癌を職業病として取り扱った。
 以来、産業革命とともに、各種の職業の従事者、特に、化学工業で働いた人々に癌が発生した。
 この場合、問題になったのは「化学物質」であり、それらによる「炎症」であった。

 1981年、同じく、イギリスの「ドル」らは癌の発生原因の割合を推計し、
 食物が約35%、タバコが30%、感染症が10%、性生活によるものが7%、アルコール飲用によるものが3%、
 などと報告した( 参照記事「食生活とがん)。
 感染症と癌の発生との関わりが10%という関連性は無視できない。

 その後、研究が進み、現在では、新しい「ウイルス感染」も加わって、寄与度は約15%と推定されている。
 今後、新しい感染症も増加することも予想されるが、感染阻止、治療法などの体制が充分でない現況からすれば、
 この推計値は、さらに増大するであろう。



(3)疫学研究で示されたもの

 1950年代、筆者(髙山)が病理解剖を始めた頃は、肺結核症と肺癌の発生には相関がほとんどみられず、
 肺結核に肺癌の発生はないだろう、と考えられていた。
 これは、若年死亡者が結核患者に多く、肺癌の発生まで生きられなかったことを物語っている。
 後年、肺結核患者に肺癌が見られるようになった理由の1つは、
 予防法、治療法が確立され直接死亡者が少なくなり、
 したがって、肺癌による死亡者が目立つようになったものと考えられる。

 さて、肺結核と肺癌の疫学調査研究も数多く報告されている。
 いずれも、対象群に比して、肺癌の発生は有意に高い。
 例えば「青木国雄」らは、愛知県の結核登録患者と、フィラデルフィアの結核登録患者を比較調査し、
 リスクの高い傾向は両地区とも同じであった、と報告した。



(4)発癌の「イニシエーション(起始)」と「プロモーション(促進)」

 「ラウス」は1941年、癌は「ウイルス」や「化学物質」が原因で体細胞に誘起された、
 「subthreshhold neoplastic states」から発生する、と報告した。
 このことは、今日では、いわゆる「イニシエーション(起始)」と呼ばれている概念に等しい。

 「イニシエーション(起始)」は、細胞核におこる不可逆的な変化であるが、それだけでは癌にならない。
 癌細胞が増殖して塊をつくるためには、細胞増殖を助ける「プロモーター(発癌促進物質)」の作用が必要である。

癌の世界では「発癌させる要因」と「発癌を促進する要因」を分けて考えます。
 「発癌させる作用」を持つ 化学物質 を『発癌イニシエーター』と言います。
 「発癌を促進する作用」を持つ 化学物質 を『発癌プロモーター』と言います。
 発癌プロモーターは 単独では 発癌性 を示さず、発癌イニシエーターの作用を「促進させる働き」をします。
 発癌イニシエーター = 発癌性物質、 発癌プロモーター = 発癌促進物質、と考えれば良いですブログ管理人


 事実、増殖しつつある細胞や、その周辺に集まってきた「炎症細胞」などから、
 直接、間接に「ホルボール・エステル」と同じような作用を持つ「プロモーター(発癌促進物質)」が出て、
 また「活性酸素」などの作用も加わって「DNA に障害を引き起こす」と考えられている。



(5)メンキンの「炎症性浸出液」の研究、発癌との関連性

 分子生物学の進展とともに、各種の「細胞増殖促進因子」が見出され、今日、この分野の研究は急速に進歩した。
 歴史的に見ると、アメリカでは、すでに1940年代から「炎症浸出液」を生化学的に研究し、
 「炎症」と癌の発生を追究した研究者がいた。それは、フィラデルフィアの「メンキン」であった。

 「メンキン」は「炎症浸出液」を透析し、

    leukotaxin(白血球の浸出を助ける
    leukocytosis(白血球増多因子
    necrosin(細胞障害因子
    leukopenia
    exudin(血管透過因子

 などをそれぞれ分離し、「炎症」の局所には単数または複数の因子が作用していることを報告した。
 〔Cancer Res, 1:548, 1941

 後年、「炎症浸出液」の「細胞増殖因子」は nucleopeptide で、
 これを非妊娠ウサギの乳嘴に注射し、乳腺の増殖が起こることを認めた。
 そして、浸出液中には「細胞増殖」─「修復作用」─「腫瘍性増殖」を起こす因子がある、と考えた。

 事実、「メンキン」は、上記の因子()をウサギ皮膚に注射し、そのあと、癌原性炭化水素を塗布し、
 対象に比して有意に皮膚腫瘍の発生を見た。
 そして「炎症性浸出液」には「発癌プロモーター作用(発癌促進物質の作用)」がある、と発表した。



(6)炎症、および、腫瘍組織の「サイトカイン」「ケモカイン」

 「炎症性浸出液」のみでなく、今日では、腫瘍細胞にも、
 白血球を引き寄せる「サイトカイン」や「ケモカイン」があることがわかってきた。
 癌組織には、好中球マクロファージ単球樹状細胞などが存在し、
 これらの細胞から「活性酸素」「タンパク分解酵素」「細胞膜貫通因子」などの「サイトカイン」、
 TNF-a や IFNs などを放出している。

 研究が進むにつれて「炎症性細胞」から放出される各種の「サイトカイン」「ケモカイン」などが癌細胞にも存在し、
 細胞増殖をめぐり、複雑に絡み合ってきた。

 例えば、腫瘍に随伴した単球由来のマクロファージ(TAMs)は、腫瘍組織内の「炎症性浸出液」中にある主要な細胞で、
 「ケモカイン」の1つである MCP によりリクルートされる。
 このマクロファージ(TAMs)は、腫瘍組織内で2つの役割を果たしている。
 第1は IL-2IL-12 などにより殺細胞性に作用する、その第2は 血管新生、
 リンパ管の新生増殖を起こす因子としての「サイトカイン」や「タンパク質分解酵素」などを産生し、
 血管新生を助けている。

 また、メラノーマの発育過程では、活性化マクロファージは TGF-bTNF-aIL-1a や「タンパク質分解酵素」を分泌し、
 メラノーマの浸潤成長に必要な血管新生に密に関連している事実も報告されている。



(7)慢性炎症と癌

 『慢性炎症』と深い関わり合いのある癌としては、
 慢性潰瘍性大腸炎やクローン病と大腸癌、C型肝炎ウイルス感染で起こる慢性肝炎と肝細胞癌、
 住血吸虫の感染により起こる膀胱癌大腸癌、ピロリ菌感染で発生する胃癌、などがある。

 表に『慢性炎症と関わりのある癌』『癌に関与する感染因子』などを一覧したので参考にされたい。

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 ピロリ菌は1983年、『慢性胃炎』の患者から分離された「グラム陰性らせん桿菌」で、
 1994年、WHO/IARC から「definite carcinogen」と決定された。
 「日本ヘリコバクター学会」のガイドラインによると、
 ピロリ菌感染により胃癌まで進展する例は、全感染者の 0.4% ぐらいと推定されている。

 癌になる原因は種々想定されているが、
 活性化マクロファージから「活性酸素」や「iNOS」が出て、直接、胃粘膜上皮に作用し細胞 DNA に変異を起こす、
 というものが有力視されている。


 「ウイルヒョー」の学説以来、「炎症」と癌はいろいろの角度から研究されてきた。
 従来、両者の関係は疫学調査研究病理学的研究などが主であったが、
 1980年になり、前述のように分子生物学が導入されるに及び、急速に進歩した。
 その結果、癌と「炎症」はお互いに関わり合いの深いものであることが明らかになってきた。

 将来、「炎症」の治療法が確立されれば、人々は果たして、癌という疾病から解放されるであろうか。
 『慢性炎症』が元で発生する癌は 約15% くらいと推定されている現状からすれば、
 癌死は幾分減少するものの、人は癌から解放されないであろう。

 現在、年間 約30万人 以上の方々が癌で死亡している。
 この数は「亡くなる人の3人に1人が癌である」ことを意味している。

 『慢性炎症』と癌の発生はかけ離れたものではなく、両疾患には共通した機構のあることが明らかになった。
 『慢性炎症』に対する予防法治療薬の創出は、癌死から人々を救うために極めて重要な課題と考えている。