この記事は、『銀座東京クリニック』院長の「福田一典」医師が公開されています「『漢方がん治療』を考える」から「527)がん組織の「アルカリ化」と「抗がん剤治療」(その1):プロトンポンプ阻害剤」記事のご紹介になります。

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 当記事で「福田一典」医師は研究報告を示しながら、次のことを科学的医学的に説明されています。


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    癌細胞は、細胞内が「アルカリ性」で、細胞外が「酸性」になっている。
     つまり、癌細胞内が「アルカリ性」になっており、癌細胞外が「酸性化」している。

    癌組織の「酸性化」が、癌細胞の浸潤転移を促進し、癌を悪性化進展させている。
     癌組織の「酸性化」は “癌の重要な成長因子” となり、癌の増殖悪性化転移進行を促進する。

    癌細胞内を「酸性化」し、癌細胞外を「アルカリ化」する方法は、有望な癌治療となる。
     癌細胞外の「酸性化」を「アルカリ化」することは、癌の悪性化進展を阻止する。

    癌組織の「酸性化」を阻害して抑制すると「抗腫瘍効果」を発揮する。
     癌組織の「酸性化」を阻害するのに「プロトンポンプ阻害剤胃酸分泌阻害剤)」が有効する。
     「プロトンポンプ阻害剤」と「ジクロロ酢酸ナトリウム」を併用すると「相乗効果」によって、
     癌組織の「酸性化」を軽減し、「抗腫瘍免疫」を活性化して「抗がん作用」を強化する。


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 当記事は、上記の内容を解説しながら「プロトンポンプ阻害剤」の有効性について考察しています。
 「プロトンポンプ阻害剤」は 癌組織の「酸性化」を阻害することにより「抗腫瘍効果」を発揮します。

 また、次の記事でご紹介させて頂きました『重曹療法』は『重曹重炭酸ナトリウム)』の「経口摂取」によって癌組織の「酸性化」を中和して「アルカリ化」することにより「抗腫瘍効果」を発揮するものです。


   『重曹』の 経口摂取 は、癌細胞の「酸性化」を改善して「アルカリ化」し、
     癌の発生の阻止、癌の浸潤・転移を 有意に 抑制する「抗腫瘍効果」を発揮する! - 福田一典 医師



 「プロトンポンプ阻害剤」は、癌組織の「酸性化」を阻害することにより「抗腫瘍効果」を発揮します。
 『重曹療法』は、癌組織の「酸性化」を中和する(アルカリ化する)ことにより「抗腫瘍効果」を発揮します。

 両者は共に、癌が増殖悪性化転移進行するための “癌の重要な成長因子” となっている癌組織の「酸性化」を改善して「抗腫瘍効果」を発揮する治療です。

 これらの治療は「抗がん剤治療」や「免疫療法」と併用すると「相乗効果」によって効果が高まります。
 ぜひ、ご参考にされてみてください。よろしくお願いします m(__)m

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 527)がん組織の「アルカリ化」と「抗がん剤治療」(その1):
     プロトンポンプ阻害剤

 【「『漢方がん治療』を考える(福田一典 医師)」
より 】

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【図】
◆◆
がん細胞内では、解糖系が亢進して「乳酸」と「水素イオンプロトンH+)」の産生が亢進している。
そのため、がん細胞内は「乳酸(酸性物質)」と「水素イオンプロトンH+)」が蓄積することにより「酸性化」傾向になる。ブログ管理人の追加文
 がん細胞内での「酸性化」を回避するため、(がん細胞は)「液胞型プロトンATPアーゼ(V-ATPase)」などの「イオンポンプ」や「トランスポーター」などを使って「プロトン(水素イオンH+)」を細胞外に排出している。その結果、がん組織が「酸性化」する。
癌細胞で「酸性化」するのは、癌細胞外〔癌細胞の外側周囲の組織です〔癌細胞外は「pH 6.2~6.9」の 酸性 です〕。逆に、癌細胞内〔癌細胞の内部は『細胞内に蓄積した「プロトン(水素イオンH+)」を細胞外に排出する』ことによって「アルカリ性」になっています〔癌細胞内は「pH 7.12~7.7」の アルカリ性 です〕。
 注意すべきことは、癌細胞で「酸性化」するのは 癌細胞外 であり、癌細胞内 は 逆に「アルカリ性」になっている、ということです。癌細胞の 内外のすべて が「酸性化」しているわけではない、という点に注意しましょう。もっと言えば、癌細胞内 は “正常細胞よりも「アルカリ性」になっている” のですが〔正常細胞内は「pH 6.99~7.05」と、ほぼ「中性」です〕、癌細胞が 細胞内 を「アルカリ」にすることが『解糖系を亢進する重要な要因』になっています
ブログ管理人

 がん組織の「酸性化」は、がん細胞の浸潤転移を促進し、「血管新生」を誘導し、「抗がん剤」の効き目を弱め、免疫細胞の働きを弱める、などの機序によって、がんを悪化させる。
 胃酸分泌阻害剤の「プロトンポンプ阻害剤」は「液胞型プロトンATPアーゼ(V-ATPase)」を阻害して、がん組織の「酸性化」を抑制する。
 「ジクロロ酢酸ナトリウムDCA)」は「ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ」を阻害することによって「ピルビン酸脱水素酵素」を活性化し、ミトコンドリアでの代謝を亢進し、解糖系を抑制し、「乳酸」と「プロトン(水素イオンH+)」の産生を減らす。
 「2-デオキシ-D-グルコース2-DG)」と『ケトン食』は、グルコース(ブドウ糖)の取込みと解糖系を抑制して「乳酸」と「プロトン(水素イオンH+)」の産生を抑制する。
 これらの方法で、がん組織の「酸性化」を阻止すると「抗がん剤治療」が良く効くようになる。◆◆



がん組織の周囲は「酸性」になっている

 がん組織では「乳酸」の産生が増えています。
 がん細胞の代謝の特徴は、酸素が充分にあっても、ミトコンドリアでの酸素を使った ATP産生が抑制され、酸素を使わない解糖系が亢進していることです。

 正常細胞では、グルコース(ブドウ糖)から ピルビン酸まで分解したあと、酸素があれば「TCA回路クエン酸回路)」と「電子伝達系」による「酸化的リン酸化」によって ATP を生成しますが、酸素が無い場合は ピルビン酸から さらに「乳酸」に分解します。

 がん細胞の場合は、「低酸素誘導因子-1HIF-1)」の活性亢進によって、ピルビン酸を「乳酸」に変換する「乳酸脱水素酵素」の発現量が増え、ピルビン酸を アセチルCoA に変換する「ピルビン酸脱水素酵素」の活性が低下しているので、酸素が充分にあっても、ミトコンドリアでの「酸化的リン酸化」は抑制され、「乳酸」の産生が増えることになります。
 この現象は「ワールブルグ効果」あるいは「好気性解糖」と言って、がん細胞の代謝の特徴です。

 なぜ、ピルビン酸で止まらないで「乳酸」に変換されるかと言うと、その理由は、解糖系で還元された NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を酸化型の「NAD+」に戻すためです。「NAD+」が枯渇すると、解糖系が進行しなくなります。
 NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、酸化還元反応における「電子伝達体」として機能します。
 NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は「酸化型(NAD+)」と「還元型(NADH + H+)」の2種類の形で存在し、「NAD+」は「解糖系の反応」に必要で、解糖系で還元型になった「NADH + H+」を「酸化型(NAD+)」に戻すために「乳酸」がつくられるのです(下図)。
 この反応によって、酸素が無い状況でも、グルコース(ブドウ糖)を分解して ATP の産生を続けることができるのです。


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【図】
◆◆
解糖系では、グルコース(ブドウ糖)から「ピルビン酸」「ATP」「NADH + H+」がつくられる。
 「嫌気性解糖系」や「乳酸発酵」では、「NADH + H+」を還元剤として用いて ピルビン酸を還元して「乳酸」にする。
 「乳酸」に変換する反応によって「NAD+」を再生することによって、解糖系での代謝が続けられる。◆◆


 この「ワールブルグ効果」の結果、がん組織では「乳酸」の産生が増え、「乳酸」と「水素イオンプロトンH+)」の細胞内濃度が高まり、細胞内の pH が低下して「酸性」になります。
 グルコース(ブドウ糖)1分子が 解糖で2分子の「乳酸」になるときに、2分子の「プロトン(水素イオンH+)」が産生されます。

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 細胞内の pH が低下して「酸性」になると細胞内のタンパク質の活性や働きは阻害され、pH 低下が顕著になれば(細胞内の「酸性化」が顕著になれば)、細胞は死滅します。
 そこで、がん細胞は「乳酸」や「水素イオンプロトンH+)」を細胞外に排出しなければなりません。

 「乳酸」は「モノカルボン酸トランスポーター(MCT)」という輸送担体で細胞外に排出され、「水素イオンプロトンH+)」は「液胞型プロトンATPアーゼ(vacuolar H+-ATPases)」「モノカルボン酸輸送体(monocarboxylate transporter乳酸-プロトン共輸送体)」「Na+-H+ 交換輸送体1Na+-H+ exchanger 1NHE1)」などによって細胞外に放出されます。

 このような機序で、がん細胞は積極的に「プロトン(水素イオンH+)」を細胞外に排出するので、細胞外はより「酸性」になり、逆に、細胞内は「アルカリ性」になります。


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【図】
◆◆
解糖によって産生された「水素イオンプロトンH+)」は「液胞型プロトンATPアーゼ(V-ATPases)」「モノカルボン酸輸送体(monocarboxylate transporterMCT)」「Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」などによって細胞外に放出される。
 「液胞型プロトンATPアーゼ(V-ATPases)」は ATP のエネルギーを使って「プロトン(水素イオンH+)」を細胞外に排出し、「Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」はナトリウムイオンと交換して「プロトン(水素イオンH+)」を排出する。「モノカルボン酸輸送体(MCT)」は「乳酸」と「プロトン(水素イオンH+)」を排出する。
 その結果、がん細胞の外は「プロトン(水素イオンH+)」が蓄積して「酸性化」する。がん組織(細胞外)が「酸性化」すると、がん細胞の浸潤転移が促進され、「血管新生」の亢進、抗がん剤耐性、免疫細胞の活性抑制などが引き起こされる。◆◆


 がん組織の「微小環境」は血液やリンパ液の循環が悪いので、「水素イオンプロトンH+)」は がん組織に蓄積します。
 その結果、がん細胞の周囲の組織は「水素イオンプロトンH+)」の濃度が高くなって pH が低下します。

上記の「微小環境」というのは『腫瘍の周囲に存在して栄養を送っている正常な細胞分子血管などのこと』です。腫瘍の存在によって「微小環境」が変化することもあれば、「微小環境」によって腫瘍の増殖や拡大が影響を受けることもあります。いわゆる「微小環境」とは『癌細胞の外側周囲の微小な環境』のことですブログ管理人


 正常の組織の pH は 7.3~7.4 程度とやや「アルカリ性」ですが、がん組織の「微小環境」の pH は 6.2~6.9 とより「酸性」になっている、と言われています。
 そして、がん組織の「酸性化」した「微小環境」は、がんの生存にとって様々なメリットを与えます。

 組織が「酸性化」すると正常な細胞が弱り、結合組織を分解する酵素の活性が高まるため、がん細胞が周囲に広がりやすくなり、さらに「血管新生」が誘導されるので、がん細胞の浸潤や転移が促進されます。
 組織が「酸性」になると、がん細胞を攻撃しにきた「免疫細胞」の働きが弱ります。

免疫細胞は「弱アルカリ性(pH 7.3~7.4)の下で正常に機能することができる」のです。そのため、免疫細胞が「酸性環境」にさらされると、その機能〔貪食能力〕が低下します。癌細胞は「酸性化」しているために「免疫細胞が攻撃し難い環境免疫細胞の苦手な「酸性環境)」なのですブログ管理人

 さらに「乳酸」には、がん細胞を攻撃する「細胞傷害性T細胞」の増殖や、「免疫細胞」の働きを高める「サイトカイン」の産生を抑制する作用があり、がんに対する「免疫応答」を低下させる作用もあります。

 「抗がん剤」の多くは「塩基性」なので、「酸性」の組織には「抗がん剤」が到達し難くなり、活性が低下する、ということも指摘されています。

塩基」として働く性質を「塩基性」と言い、そのような水溶液を特に「アルカリ性」と言います。
 「抗がん剤」は、癌細胞を傷害するだけでなく、正常細胞をも傷害してしまう、これが「副作用」となります。
 「抗がん剤」の多くが「塩基性」であるということは、多くの「抗がん剤」が「酸性化している癌細胞」に到達し難く傷害し難い‥、逆に「弱アルカリ性の正常細胞」には到達しやすく傷害しやすい、ということになります。
 つまり「塩基性」の「抗がん剤」は、癌細胞を傷害することが苦手で、正常細胞を傷害することのほうが得意となりますね。これでは「抗がん剤の副作用」が顕著に出てしまって当然ではないでしょうか‥ブログ管理人



 したがって、がん組織の「酸性化」を改善できれば、「抗がん剤治療」や「免疫療法」の効き目を高めることができることになります

免疫細胞も塩基性」の「抗がん剤」も弱アルカリ性(pH 7.3~7.4)の下で癌細胞を傷害しやすくなる」ため、次の記事で説明されているように、『重曹』を「経口摂取」することによって癌細胞の「酸性化」を改善すれば〔重曹』の「経口摂取」によって癌細胞の「酸性環境」が中和されて「制酸」され、「アルカリ性環境」になれば〕、「アルカリ性環境」で正常に機能できる〔アルカリ性環境が得意である〕免疫細胞や塩基性」の「抗がん剤」の「癌細胞への傷害能力」を支援することができます。

   『重曹』の 経口摂取 は、癌細胞の「酸性化」を改善して「アルカリ化」し、癌の発生の阻止、
     癌の浸潤・転移を 有意に 抑制する「抗腫瘍効果」を発揮する! - 福田一典 医師


 このように、癌細胞の「酸性化」を改善することは、癌治療を有利に進めるために非常に重要なのですブログ管理人



 さらに「水素イオンプロトンH+)」の排出メカニズムを阻害して、がん細胞内の pH を低下させれば、がん細胞を死滅させることもできます。



がん細胞内は、正常細胞よりも「アルカリ性」になっている

 がん細胞では、解糖系の亢進によって「乳酸」と「水素イオンプロトンH+)」の細胞内での産生が亢進しています。
 したがって『がん細胞内も「酸性化」している』と思うかもしれません。

 しかし、事実は逆で『がん細胞内では、正常細胞より「アルカリ性」になっている』ことが明らかになっています。
 そして、細胞内を「アルカリ」にすることが、細胞の「発がん過程の初期」から起こっており、これが「解糖系を亢進する重要な要因」になっているのです。
 つまり、がん細胞で「ワールブルグ効果「解糖系亢進」と「酸化的リン酸化」の抑制 )」が「成立する前」に、細胞内の「アルカリ化」が起こっていることが明らかになっています。

 発がん過程における「がん遺伝子」や「がん抑制遺伝子」の様々な関与については、多くの研究が行なわれています。


 一方、細胞の内外における「水素イオンプロトンH+)」の動態については、最近になって、やっと、研究が行なわれるようになりました。

 「水素イオン指数pHpotential of hydrogen)」は「水素イオンの濃度」を表す物理量です。
 「pH」の読みは「ピーエイチ英語読み)」、または「ペーハードイツ語読み)」です。

 pH は「水素イオンのモル濃度」を「mol/L」で表した数値の逆数の常用対数で示したものです。
 数値が低いほど「酸性(プロトン量が多い)」、数値が高いほど「アルカリ性(プロトン量が少ない)」になります。


 「細胞内の pH(pHi)」と「細胞外の pH(pHe)」の「pH 勾配pH gradient)」は、正常細胞と がん細胞では「逆」になっています。
 すなわち、正常細胞では 細胞内に比べて 細胞外のほうがより「アルカリ性」で、がん細胞では 細胞内が「アルカリ性」で 細胞外が「酸性」になっています。

正常細胞と癌細胞における「細胞内細胞外の pH の関係」についての図が下記されていますので参照されてください。
 正常細胞では、細胞内に比べて、細胞外のほうがより「アルカリ性」になっています。
 がん細胞では、細胞内が「アルカリ性」で、細胞外が「酸性」になっていますが、これは上記の如く、「ワールブルグ効果」によって細胞内に「乳酸」と「プロトン(水素イオンH+)」の産生が増えることで起こる「細胞内の酸性化」を防ぐための『プロトン(水素イオンH+)を細胞外に排出する作用』によるものですブログ管理人



 「がん遺伝子」を導入して細胞を「がん化」させる実験で、細胞が「がん化」する過程で、細胞内の「エネルギー産生系」が ミトコンドリアの「酸素呼吸(酸化的リン酸化)」から 解糖系にシフトします。
 この実験系で、細胞の「がん化」が進むにつれて、細胞内がより「アルカリ性」になり、細胞外がより「酸性」になることが示されています。

 そこで、この「pH 勾配」を少なくする、あるいは、正常化する(細胞内を「酸性」にして、細胞外を「アルカリ性」にする)ことが、がん治療のターゲットとして注目されています。
 がん細胞における「好気性解糖酸素が充分にあっても、解糖系に依存)」を中心とする代謝と、がん細胞の増殖を支える「血管の新生」をターゲットにした がん治療を考えたとき、細胞内外の「プロトン(水素イオンH+)動態」が重要なターゲットになるのです。


 細胞内の pH(pHi)は、細胞増殖の制御、増殖因子や「がん遺伝子」の活性、ミトコンドリアの活性、酵素活性、DNA合成、分化など、様々な細胞機能に影響しています。
 正常細胞では 細胞内の pH(pHi)は 6.99~7.05 とほぼ「中性」で、がん細胞では 細胞内の pH(pHi)は 7.12~7.7 と「アルカリ性」です。
 一方、細胞外の pH(pHe)は、正常細胞が 7.3 ~7.4 と「アルカリ性」であるのに対して、がん細胞の細胞外の pH(pHe)は 6.2~6.9 と「酸性」です。
 したがって、細胞内外の「pH 勾配」は、正常細胞と がん細胞では「逆」になっています。


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【図】
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正常細胞では、細胞内 pH(pHi)は 6.99~7.05 とほぼ「中性」で、細胞外 pH(pHe)は 7.3~7.4 と「アルカリ性」になっていて、細胞外 pH(pHe)が 細胞内 pH(pHi)より高い。
 一方、がん細胞では、細胞内 pH(pHi)は 7.12~7.7 と「アルカリ性」になって、細胞外 pH(pHe)は 6.2~6.9 と「酸性」になって、細胞内 pH(pHi)が 細胞外 pH(pHe)より高い。◆◆



がん細胞内の「アルカリ化」は「解糖系亢進(ワールブルグ効果)」を促進している

 上述のように、細胞内 pH(pHi)と 細胞外 pH(pHe)の差は、正常細胞では「マイナス(細胞外のほうが pH は高い)」で、がん細胞では「プラス(細胞内のほうが pH は高い)」になっています。

 がん細胞において、細胞内 pH が「アルカリ性」で、細胞外 pH が「酸性」という状況が、細胞増殖や「血管新生」を促進する「重要な要因」になっていることが明らかになっています。

 したがって、

    がん細胞の細胞内 pH を低下させ(がん細胞内を「酸性化」させ)、
     がん細胞の細胞外 pH を高める(がん細胞外を「アルカリ化」する)。


 この方法は「有望な がん治療」となります。

癌細胞で「酸性化」するのは、癌細胞外〔癌細胞の外側周囲の組織〕です。癌細胞内〔癌細胞の内部は「アルカリ性」になっています。この 癌細胞外 の「酸性化」が、癌の成長を促進する “癌の重要な成長因子” になっているのです。
 癌細胞における「酸性化」は “癌の重要な成長因子” となり、癌の成長を促進し、癌を進行させる大元になっています。この癌細胞の「酸性化」を「アルカリ化」する治療は、癌の成長を阻害する上で「重要な要素」となります。癌細胞の「酸性化」を「アルカリ化」すること‥、これは、癌の成長を挫いて弱め、癌の勢いを削ぎ、癌の進行を阻止するのに非常に「重要な要素」なのですブログ管理人



 がん細胞では、解糖系の亢進によって「乳酸」と「プロトン(水素イオンH+)」の産生は亢進しています。
 しかし、がん細胞では「プロトン(水素イオンH+)」の 細胞外排出能 を高めることによって、細胞内を「アルカリ性」に維持し、細胞外の「酸性度」を高めています。

 この『細胞外への「プロトン(水素イオンH+)」の排出』は、前述のように、

    Na+-H+ 交換輸送体1Na+-H+ exchanger 1NHE1
    液胞型プロトンATPアーゼ(vacuolar H+-ATPases)〔ATPアーゼ」を参照 〕
    H+/Cl 共輸送体(H+/Cl symporter)〔膜輸送体」を参照 〕
    モノカルボン酸輸送体(monocarboxylate transporterMCT乳酸-プロトン共輸送体
    ナトリウム依存性Cl−/HCO3− 交換体(Na+-dependent Cl−/HCO3− exchangers
    炭酸脱水酵素Carbonic anhydrase
    ATP合成酵素ATP synthase

 などの「トランスポーター」や酵素によって制御されています。

 がん細胞は解糖系での代謝が亢進しており、その結果「乳酸」と「プロトン(水素イオンH+)」の産生が増えています。
 この「乳酸」と「プロトン(水素イオンH+)」を「細胞外に積極的に放出する」ことによって、細胞内は「アルカリ側」に維持しています。

 がん組織は「細胞外液」の循環が悪いので、細胞外に「乳酸」や「プロトン(水素イオンH+)」が蓄積して、細胞外は「酸性」になっています。この「pH 勾配」の逆転が、がん細胞の悪性化進展に関与していることが示されています。

 「がん遺伝子」を導入して細胞の「がん化」を誘導する実験で、細胞の「がん化の過程の初期」に「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」活性が亢進して、がん細胞内の pH が「アルカリ化」することが観察されています。
 この細胞内の「アルカリ化」は、解糖系での酵素活性を高め、「好気性解糖ワールブルグ効果)」を亢進し、細胞の増殖を促進します。
 つまり、細胞の「がん化」過程において「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」活性が亢進し、細胞内の「アルカリ化」が亢進することが、細胞の解糖系と「がん化」過程をさらに亢進することになるのです。

 がん細胞の「エネルギー代謝」で、最も特徴的なのが、酸素が充分に利用できる状況でも、がん細胞はミトコンドリアでの「酸素呼吸(酸化的リン酸化)」が抑制され、酸素を使わない解糖系での「グルコース代謝(ブドウ糖代謝)」が亢進していることです。この現象は「オットー・ワールブルグ」博士によって発見されたので「ワールブルグ効果」と呼ばれています。

 解糖系と「酸化的リン酸化」の活性は 細胞内 pH(pHi)に依存していますが、その作用は「逆」です。
 つまり、細胞内の「アルカリ化」に伴って、ミトコンドリアの「酸素呼吸(酸化的リン酸化)」から解糖に移行するのです。
 細胞内 pH(pHi)が「アルカリ化」すると、解糖系酵素(ホスホフルクトキナーゼ-1」や「乳酸脱水素酵素」など )の活性が亢進することが明らかになっています。

 解糖で1分子のグルコース(ブドウ糖)から 2分子の「プロトン(水素イオンH+)」が産生されます。

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 「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」は「細胞外のナトリウムイオン」と「細胞内のプロトン(水素イオンH+)」を交換しながら、細胞内の「プロトン(水素イオンH+)」を細胞外に放出する働きを示す「交換輸送体」です。

 細胞内 pH(pHi)が低下すると(酸性化すると)「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」に「プロトン(水素イオンH+)」が結合して構造が変化し、活性化します。
 「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」の発現と活性が亢進すると、細胞内は「アルカリ化」し、細胞外は「酸性」になります。
 「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」の発現が多いほど、予後が悪いことが報告されています。

 がん細胞内が「酸性」になると「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」に「プロトン(水素イオンH+)」が結合して活性が亢進するので、細胞内の解糖系を阻害すると「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」の活性を抑制できます。
 また「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」の発現は「低酸素誘導因子-1HIF-1)」で誘導されるので、「低酸素誘導因子-1HIF-1)」の活性を抑制すると「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」の活性を抑制できます。


 「ジクロロ酢酸」や「ジインドリルメタン 」は「低酸素誘導因子-1HIF-1)」の活性を抑制します。
 (364話」参照

 「モノカルボン酸トランスポーター(Monocarboxylate transporterMCT)」は「乳酸」や「ピルビン酸」や「ケトン体」と一緒に「プロトン(水素イオンH+)」を『受動拡散』で排出する「共輸送体」です。
 これも「低酸素誘導因子-1HIF-1)」で誘導されます。

 「低酸素誘導因子-1HIF-1)」は「プロトン(水素イオンH+)」を細胞外に排出するポンプや「トランスポーター」や酵素の発現を亢進して、細胞内 pH(pHi)を「アルカリ性(pH7.3以上)」に維持しようとしています。
 したがって「低酸素誘導因子-1HIF-1)」のは発現や活性を抑えることは、がん組織の「酸性化」を阻止します。

 「モノカルボン酸トランスポーター(MCT)」は、細胞内 pH(pHi)を高め、細胞外 pH(pHe)を低下させます。
 「モノカルボン酸トランスポーター(MCT)」を阻害すると 細胞内 pH(pHi)が低下して(酸性化して)増殖活性が低下することが示されています。

 「液胞型プロトンATPアーゼ(V-ATPases)」は、ATP のエネルギーを使って「プロトン(水素イオンH+)」を細胞外に排出します。


 「Na+-H+ exchanger 1(Na+-H+ 交換輸送体1NHE1)」や「モノカルボン酸トランスポーター(MCT)」の阻害剤は「抗がん作用」が期待できるので開発中ですが、まだ臨床で使用できるものはありません。

 一方、「液胞型プロトンATPアーゼ(V-ATPases)」は、胃薬としてすでに使用されている「プロトンポンプ阻害剤」で阻害できることが報告されています。
 「プロトンポンプ阻害剤」で、細胞外を「アルカリ性」にして、細胞内を「酸性」にすると、がん細胞の増殖を抑え、「抗がん剤」の効き目を高めることができます。



がん組織の「酸性化」を促進する『V型ATPアーゼ』

 がん細胞の「水素イオンプロトンH+)」の排出に大きな役割を果たしているのが、前述の『V型ATPアーゼ』です。
 がん細胞では、この『V型ATPアーゼ』の発現が亢進しており、がん組織の「酸性化」に関与しています。

 『V型ATPアーゼ』の阻害薬が がんの治療薬として開発が行なわれていますが、胃酸分泌阻害剤としてすでに使用されている「プロトンポンプ阻害剤」が『V型ATPアーゼ』を阻害する作用があることが知られています。
 胃潰瘍の治療に使われる「プロトンポンプ阻害剤」は、主に、胃の「H+/K+ ATPase」を阻害しますが、『V型ATPアーゼ』も阻害します。
 実際に、動物の移植腫瘍を使った実験などで、「プロトンポンプ阻害剤」が腫瘍組織の「酸性化」を改善して「抗がん剤」や「免疫療法」の効果を高める作用が報告されています。


 細胞膜を隔てた「物質の輸送」には、濃度の高いほうから低いほうに向かって行なわれる『受動拡散』と、濃度勾配に逆らって「物質の輸送」を行なう『能動輸送』の2種類があります。

 『受動拡散』の場合の膜を通るルートの膜貫通タンパク質は「チャネル(channel)」と言い、『能動輸送』に関与する膜貫通タンパク質は「ポンプ(pump)」と言います。
 濃度勾配に逆らって物質を輸送するためには、ATP によるエネルギーが必要です。

 ATP のエネルギーを使って「水素イオンプロトンH+)」を能動的に輸送する「トランスポーター」として、がん細胞における「水素イオンプロトンH+)」の細胞外への排出に関与しているのが『V型ATPアーゼ』です。
 つまり「ATP依存性のプロトンポンプ」です。

 『V型ATPアーゼ』は「vacuolar ATPase」の日本語訳です。
 『液胞型ATPアーゼ』や『液胞型プロトンポンプ』などとも訳されています。

 「ATPアーゼ」とは、ATP(アデノシン三リン酸)の「末端高エネルギーリン酸結合」を加水分解する酵素群の総称で、ATP を使って生物活動を行なうタンパク質の多くが、この活性を持っています。

 つまり『V型ATPアーゼ』は、液胞の「プロトン(水素イオンH+)」の『能動輸送』を行なう「ATPアーゼ」活性を持ったタンパク質で、ATP のエネルギーを使って「プロトン(水素イオンH+)」を能動的に細胞膜を通して輸送するタンパク質です。

 『V型ATPアーゼ』は 細胞の ゴルジ体液胞リソソーム細胞膜 などの「膜系」に存在し、十数個の異なるサブユニットから構成される複合体です。ATP の「加水分解反応」と共役した「回転触媒機構」により「水素イオンプロトンH+)」を輸送し、空胞内部を「酸性化」します。

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 例えば、リソソームは細胞内に蓄積された不要物を分解したり、細胞外から取り込んだ物質を分解する小胞で、リソソームの内部は「酸性」条件下で活性化される「加水分解酵素」が含まれています。このリソソームの空胞内部に「水素イオンプロトンH+)」を輸送して内部を「酸性」にするのが『V型ATPアーゼ』です。

 細胞内では、外部の物質を取り込んで消化する「エンドサイトーシス」や、細胞内の古くなった小器官などを消化する「オートファジー」など、細胞内での物質の分解は膜で囲まれた小胞内で行なわれ、この内部の「加水分解酵素」の活性化に必要な pH に下げる役割が『V型ATPアーゼ』です。

 そして、がん細胞では、細胞内で大量に生成した「水素イオンプロトンH+)」を「細胞の外に排出する」役割も担っています。



『V型ATPアーゼ』を阻害すると、がん細胞の悪性度は低下する

 『V型ATPアーゼ』は「ATP依存性のプロトンポンプ」で、細胞膜を通して「プロトン(水素イオンH+)」を外に排出します。正常細胞では、細胞内 pH(pHi)の調節に重要な役割を果たしています。

 がん細胞では、さらに重要な役割を担っています。
 それは、がん細胞では、解糖系の亢進によって「乳酸」と「水素イオンプロトンH+)」の産生が増えて、細胞内が「酸性」になりやすい状況にあり、細胞内の「酸性化」を防がないと細胞死を起こすからです。
 したがって、がん細胞では、この『V型ATPアーゼ』の発現量が顕著に増えています。
 V型ATPアーゼ』の発現量の増加が、がん細胞の浸潤や転移や「抗がん剤抵抗性」と関連していることが明らかになっています。


 がん細胞の周囲が「酸性」になると、正常細胞(特に 免疫細胞)がダメージを受けて働きが抑制され、結合組織を分解する酵素が活性化されて、転移や浸潤や「血管新生」が促進されます。
 さらに、がん細胞の周囲が「酸性」だと、多くの抗がん剤は「塩基性」であるため、がん細胞内に集まり難くなります。
 そのため、がん細胞における「プロトンポンプ」の働きを阻害すると、がん細胞の浸潤や転移や「抗がん剤抵抗性」を抑制できる、と考えられています。

 『V型ATPアーゼ』そのものの阻害を目的にした「抗がん剤」の開発も行なわれていますが、まだ臨床で使えるものはありません。しかし、胃潰瘍の治療に使用される「プロトンポンプ阻害剤」が、この『V型ATPアーゼ』を阻害することが報告されています。

 「プロトンポンプ阻害剤」は、胃の壁細胞の「プロトンポンプ」に作用し、胃酸の分泌を抑制する薬です。
 医薬品としては「オメプラゾールオメプラールオメプラゾン)」「ランソプラゾールタケプロン)」「ラベプラゾールナトリウムパリエット)」「エソメプラゾールネキシウム)」など多数の薬が販売されています。
 これらの「プロトンポンプ阻害剤」が、がん細胞の「抗がん剤感受性」を高める効果、がん細胞に対する「免疫細胞」の働きを高める効果、がん細胞内の「水素イオン濃度pHpotential of hydrogen)」を高めて がん細胞を死滅させる効果などが報告されています(下図)。


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【図】
◆◆
がん細胞は、解糖系によるグルコース代謝(ブドウ糖代謝)が亢進して「乳酸」と「水素イオンプロトンH+)」の産生量が増える。細胞内の「酸性化」は 細胞にとって障害になるので、細胞は『V型ATPアーゼvacuolar ATPase液胞型ATPアーゼ)』や「モノカルボン酸トランスポーター(MCT)」などの仕組みを使って、細胞内の「乳酸」や「水素イオンプロトンH+)」を細胞外に排出する。その結果、がん細胞の周囲は pH が低下して、がん組織は「酸性化」している。
 組織が「酸性化」すると、「細胞傷害性T細胞」のような「がん細胞を攻撃する免疫細胞」の働きが阻害される。
 「塩基性」の「抗がん剤」は「酸性」の組織に到達し難くなり「抗がん剤」が効かなくなる。
 さらに、周囲の正常細胞がダメージを受け、タンパク分解酵素が活性化して、がん細胞の浸潤や転移が促進される。
 腫瘍を養う「血管の新生」も誘導される。
 胃酸分泌阻害剤として使われている「プロトンポンプ阻害剤」は『V型ATPアーゼV-ATPase)』を阻害することにより、がん組織の「酸性化」を抑制し、がん細胞の浸潤や転移を抑制し、「抗がん剤」や「免疫療法」が効きやすくする効果が報告されている。さらに、がん細胞内の「酸性化」が亢進すると、がん細胞を死滅できる可能性も報告されている。◆◆



「プロトンポンプ阻害剤」は「抗がん剤」の効き目を高める

 「抗がん剤治療」と「プロトンポンプ阻害剤」の併用の有用性を示す論文が報告されています。
 人間での有効性も報告されています。

 以下のような論文があります。


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   Proton pump inhibitor chemosensitization in human osteosarcoma: from the bench to the patients' bed.
    (ヒト線維肉腫における「プロトンポンプ阻害剤」による「抗がん剤感受性」の亢進実験台の結果から臨床へ
    〔J Transl Med. 2013 Oct 24;11:268. doi: 10.1186/1479-5876-11-268.


【要旨】

〔研究の背景〕
 がんの基礎研究を臨床応用に反映させる上で、最も大きな目標は、現行の「抗がん剤治療」の『全身的な毒性』を減らし、「抗腫瘍効果」を高めることである。
 多くの がん組織において認められる「微小環境」の「酸性化」は、がん細胞が「抗がん剤」の効き目を減弱させるメカニズムとしては非常に有効な方法である。
 それは、「水素イオンプロトンH+)」が多い環境に「抗がん剤」が到達すると、その「抗がん剤」は「プロトン付加protonation)」と「中性化」によって、がん細胞内に入り込み難くなるからである。
 この腫瘍組織の性状を「プロトンポンプ阻害剤」が変えることによって、がん細胞の「抗がん剤感受性」が高まることを、我々は以前の研究で示している。
 この研究では「プロトンポンプ阻害剤」が「骨肉腫」に対する「抗がん剤感受性」を高める効果があるかどうかを検討した。

〔方法〕
 「MG-63」と「Saos-2」の2種類の「ヒト骨肉腫細胞の細胞株」を用いて実験を行なった。
 マウスに「肉腫細胞」を移植する実験系で「プロトンポンプ阻害剤」で前処理したあとに「シスプラチン」を投与し、細胞増殖に対する作用を評価した。
 臨床において「メソトレキセート」と「シスプラチン」と「アドリアマイシン」による「補助化学療法」において「プロトンポンプ阻害剤」の前投与による効果を検討する多施設臨床試験を実施した。

〔結果〕
 「培養細胞を使った実験」と「移植腫瘍を用いた実験」で2種類の「ヒト骨肉腫細胞株」のどちらに対しても、「プロトンポンプ阻害剤」は「シスプラチン」に対する「抗がん剤感受性」を高めた。
 「プロトンポンプ阻害剤」の「エソメプラゾールesomeprazole)」を前投与する臨床試験では、 がん組織の壊死した組織の割合から評価した「抗がん剤治療」による「抗腫瘍効果」を「エソメプラゾール」は増強した。
 この作用は、治療が困難な「骨肉腫の組織型である軟骨芽細胞骨肉腫(chondroblastic osteosarcoma)」において、特に顕著に認められた。
 「プロトンポンプ阻害剤」投与によって副作用が増強することはなかった。

〔結論〕
 標準的な「抗がん剤治療」に「プロトンポンプ阻害剤」を併用することが有効であることの証拠を本研究は示している。


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 「プロトンポンプ阻害剤」が、がん細胞の「抗がん剤感受性」を高めることは、今までに多くの報告があります。

 がん細胞では、解糖系が亢進し、「乳酸」の産生が亢進し、組織が「酸性化」しているのが特徴です。
 この組織の「酸性化」は「免疫細胞」の働きを弱めたり、結合組織を分解する酵素の活性を高めて がん細胞の浸潤や転移を促進したり、「血管新生」を促進する作用などがあります。
 さらに「抗がん剤」が、がん細胞内に入り難くなったり、活性が低下する作用もあります。
 したがって、がん組織の「酸性化」を阻止すると「抗がん剤」が効きやすくなることが多くの動物実験で示されています。

 そして、この論文では、人間での臨床試験の結果で「プロトンポンプ阻害剤」が「抗がん剤治療」の効果を高めることを報告しています。
 この臨床試験では、手術可能な「骨肉腫」の患者を対象にして「プロトンポンプ阻害剤」の「エソメプラゾールesomeprazole)」を術前「補助化学療法(メソトレキセートシスプラチンアドリアマイシン)」の投与を受ける前の2日間の内服を受けています。
 そして、手術後の腫瘍組織の病理検査で、「抗がん剤治療」によって がん組織が壊死した程度を、過去のデータと比較しています。
 その結果、「抗がん剤治療」が良く効いた症例(good responder壊死した腫瘍部分が 90% 以上)の割合は「抗がん剤治療」単独では 47% に対して、「抗がん剤」に「プロトンポンプ阻害剤」を併用した場合は 57% に増加する、という結果が得られています。

 治療に抵抗性の「軟骨芽骨肉腫(chondroblastic osteosarcoma)」の場合は、「抗がん剤」単独では「good responder」は 25% に対して、「プロトンポンプ阻害剤」を併用すると 61% になる、という結果が得られています。そして、副作用の程度は、両群で差は認められていません。
 「プロトンポンプ阻害剤」を服用して、がん組織の pH を「アルカリ側」にすることは、がん治療にプラスになる、と言えそうです。

 次のような論文もあります。


   Lansoprazole as a rescue agent in chemoresistant tumors
      a phase I/II study in companion animals with spontaneously occurring tumors.

   (抗がん剤抵抗性腫瘍の救援成分としてのランソプラゾール自然発症腫瘍をもつペット動物における第I/II相試験
   〔J Transl Med. 2011; 9: 221.


 「ランソプラゾール」は「タケプロン」という商品名の「胃酸分泌阻害剤」です。

 「抗がん剤 単独〔犬10匹猫7匹」と「抗がん剤+Lansoprazole(ランソプラゾール)〔犬27匹猫7匹〕」で検討し、「抗がん剤 単独群」では 17% に短期間の部分奏功を認めましたが、その他はすべて2ヵ月以内に死亡しました。
 「Lansoprazole(ランソプラゾール)を併用した群」では、部分奏功+完全奏功が 67.6% でした。
 奏功しなかった動物でも、QOL の改善を認めました。



「プロトンポンプ阻害剤」と「ジクロロ酢酸」は、相乗効果で、
  がん組織の「酸性化」を軽減する


 「ジクロロ酢酸」は「ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ」を阻害して「ピルビン酸脱水素効果」を活性化して、ミトコンドリアでの「酸素呼吸(酸化的リン酸化)」を亢進し、「乳酸」と「プロトン(水素イオンH+)」の産生を抑制します。

 「ジクロロ酢酸」は「低酸素誘導因子-1HIF-1)」の活性を抑える作用もあります(364話」参照 )。
 「低酸素誘導因子-1HIF-1)」は「乳酸脱水素酵素」を活性化するので、「低酸素誘導因子-1HIF-1)」の活性阻害は「乳酸」と「プロトン(水素イオンH+)」の産生を減らします。

 「線維肉腫細胞(HT1080)」を移植したヌードマウスの実験モデルで、「ジクロロ酢酸ナトリウムDCA)」と「オメプラゾール」は相乗的に増殖を抑制する、という報告があります。
 「ジクロロ酢酸ナトリウムDCA)」で、ピルビン酸 から アセチルCoA への変換を促進すると「乳酸」の産生が抑制されます。プロトンポンプ阻害剤」と「ジクロロ酢酸ナトリウムDCA)」の併用は、がん組織の「酸性化」を抑制する効果を高めることになります

 「ジクロロ酢酸ナトリウムDCA)」と「プロトンポンプ阻害剤オメプラゾール)」の併用で「相乗効果」が期待できることが報告されています。以下のような論文があります。


   Cotreatment with dichloroacetate and omeprazole exhibits a synergistic antiproliferative effect
      on malignant tumors.

   (「ジクロロ酢酸」と「オメプラゾール」の併用投与は、悪性腫瘍に対して相乗的な「増殖抑制効果」を示す
   〔Oncol Lett. 3(3): 726–728.2012年


 「線維肉腫細胞」を移植したヌードマウスの実験で、「ジクロロ酢酸ナトリウム 50mg/kg」+「オメプラゾールプロトンポンプ阻害剤)2mg/kg」の併用で、著明な「腫瘍の縮小」が認められています。
 それぞれ、単独では「腫瘍の縮小」は認めなかったが、併用すると著明な「縮小効果」が認められた、という結果です。
 正常な「線維芽細胞」に対しては「増殖抑制効果」は認めなかった、と報告されています。

 「プロトンポンプ阻害剤PPI)」は、がん細胞に対する「免疫細胞」の攻撃力を高めます。
 「プロトンポンプ阻害剤PPI)」が「骨肉腫」や「転移性乳がん」や「頭頚部がん」の「抗がん剤治療」の効き目を高めることが臨床試験で示されています。

 「ジクロロ酢酸ナトリウムDCA)」の投与で、がん組織の「酸性化」が緩和されると「免疫細胞」の働きが良くなって「抗腫瘍免疫」による「抗がん作用」が強化されることが報告されています。
 がん組織の「酸性化」が「免疫細胞」の働きを抑制するからです。

癌組織の「酸性化」が「免疫細胞」の働きを抑制します〔上述の如く、免疫細胞は「酸性環境」の下では機能が低下するためです〕。ですから、癌組織の「酸性化」を緩和すれば「免疫細胞」の働きが良くなり「抗腫瘍免疫」が活性化するので「抗がん作用」が強化されるのですブログ管理人

 したがって「ジクロロ酢酸ナトリウムDCA)」と「プロトンポンプ阻害剤」の併用は「抗腫瘍免疫」の活性化にも効果が期待できます(359話」参照 )。


 「ジクロロ酢酸ナトリウムDCA)」単独での治療では「抗腫瘍効果」に限界があります。
 そこで、いろんな組合せが試されています。

 標準治療としては、種々の「抗がん剤」との併用で「抗腫瘍効果」を高める作用が報告されています。
 「プロトンポンプ阻害剤」は「抗がん剤治療」による胃粘膜障害による副作用や消化器症状を緩和するという臨床試験の結果も報告されています。
 したがって「抗がん剤治療」や「免疫療法」を受けているときに、がん組織の「酸性化」を軽減し、胃腸症状を緩和する目的で「プロトンポンプ阻害剤」を併用するメリットはあると言えます。

 その他、解糖系を阻害する「2-デオキシ-D-グルコース2-DG)」や『ケトン食』の併用も、がん組織の「酸性化」を抑制して「抗がん剤治療」の効き目を高めると言えます(トップの図を参照)。




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