この記事は「シリーズ記事」になります。

    ブドウ糖を絶てば、がん細胞は死滅する! 福田一典(著)①
     【 癌細胞の代謝の特徴:癌とブドウ糖の関係:
       ブドウ糖は、癌の発生・増殖・悪性化・転移・進行を促進する!】
本記事

    ブドウ糖を絶てば、がん細胞は死滅する! 福田一典(著)②
     【 癌治療に「糖質制限食(ケトン食)」が有効する理由:
       ケトン体・ケトン食 自体に『抗がん作用』がある!】


    ブドウ糖を絶てば、がん細胞は死滅する! 福田一典(著)③
     【 ブドウ糖を絶って癌が死滅しても、癌は治っていない!
       糖質制限食・ケトン食は 癌治療を有利に進める役割!】



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 当記事は、『銀座東京クリニック』院長「福田一典」医師の著書『ブドウ糖を絶てば、がん細胞は死滅する! ~ 今あるがんが消えていく『中鎖脂肪ケトン食』』から、癌患者が最も留意せねばならない「癌とブドウ糖の関係」に関する部分をご紹介させて頂きます。

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 まずは、当記事でご紹介させて頂く内容の【目次】をご覧ください。


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     はじめに

     第1章 がん細胞とは何か

       がん細胞は遺伝子の異常で発生する
       がん細胞は増殖や細胞死の制御システムが壊れている
       がん細胞は代謝が亢進している
       がん細胞の燃料を枯渇させる治療法
       がん細胞はブドウ糖を多く取り込む


     第2章 細胞とエネルギー

      「細胞のエネルギー通貨」の異名を持つATP
       酸素を使ってATPを産生するミトコンドリア
       細胞はブドウ糖を燃焼してエネルギーを産生する
       脂肪や蛋白質もエネルギー源となる
       ブドウ糖がピルビン酸になる反応「解糖」
       酸素があると、ピルビン酸がミトコンドリアに入ってATPが生成される
       酸素がなければ、酵母は発酵でATPを産生する
       嫌気性解糖系は発酵と同じ


     第3章 がん細胞の特徴

       正常細胞は酸素があれば、酸素を使ってエネルギーを生成する
       がん細胞は酸素があっても酸素を使わない
       HIF‐1の役割
       がん細胞が酸素を嫌う理由
       がん細胞におけるワールブルグ効果の重要性
       ブドウ糖はがん細胞の生命線


     第4章 糖質の多い食事ががんを増やす

       インスリンの役割
       発がんリスクを高める糖尿病と肥満
       高血糖や肥満ががん細胞の増殖を促進する理由
      「高インスリン血症」だけでも、発がんが促進される
       がん細胞の増殖進展のカギを握るIGF‐1
       三大栄養素の摂取量の適正比率
       炭水化物が主食になったのは人類の歴史の中のわずかな期間でしかない
       脂肪を多く摂っても、炭水化物が少なければ問題ない
       糖質の摂り過ぎががんを含む多くの病気の原因になっている



             ブドウ糖を絶てば、がん細胞は死滅する!
                      ~ 今あるがんが消えていく『中鎖脂肪ケトン食』



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 「癌とブドウ糖の関係」につきましては、当ブログサイトでも「癌の最大のエサは「ブドウ糖」(ブドウ糖は癌を育てて進行させる)」カテゴリにて取り上げており、多くの記事にて何度も何度も細々と注釈内で説明しています。
 それは「ブドウ糖」が “癌細胞を育てる最大の要素” だからです。

 癌細胞の唯一にして最大のエサは「ブドウ糖」です。
 癌患者が「癌とブドウ糖の関係」について無知のまま、日々の食事で糖質(ブドウ糖)を健常者(健康者)並みに無頓着に摂取すれば、必ずや、癌細胞を大いに育てることとなり、癌の増殖悪性化転移進行に大きく加担することになります。

 「癌とブドウ糖の関係」は、もはや、世界の「癌の常識」です。
 癌患者であるならば、まず第一に、この「癌とブドウ糖の関係」を真っ先に学び、よく熟知して、「ブドウ糖」の摂取について真剣に考慮する必要があります。
 癌患者として日々の食事の糖質(ブドウ糖)の摂り方をよく考え、留意せねばならないのは言わずもがなであり、ここを無視すると、どのような癌治療を受けようとも、その治療効果が木端微塵に打ち砕かれてしまうでしょう。


 肉製品と牛乳乳製品には『癌の発生、及び、癌の増殖悪性化転移を促進する作用』があり、「ブドウ糖」と同様に “癌を大いに育ててしまう元凶” になります。
 ですから、癌患者であるならば、肉製品と牛乳乳製品の摂取に対しても必ず留意せねばなりません。

 ただ、この肉製品と牛乳乳製品が癌を大いに育てるのは、癌患者が糖質(ブドウ糖)を健常者(健康者)並みに摂取している上での話であり、「糖質制限食(ケトン食)」を実行している条件下では癌を育てる足枷にはならないと言われています。
 しかし、肉製品と牛乳乳製品自体に『癌の発生、及び、癌の増殖悪性化転移を促進する作用』があるため、肉製品と牛乳乳製品を摂り続ければ、まず『癌の発生、及び、癌の増殖悪性化転移を促進する作用』が体内に蓄積し、より癌が育ちやすい体内環境が形成されますので、事情により「糖質制限食(ケトン食)」を止めて、また糖質(ブドウ糖)を健常者(健康者)並みに摂り始めた途端に、癌がさく裂して発生する可能性などいくらでも出て来るものと思われます。なので、私は、癌が改善するまでは肉製品と牛乳乳製品の摂取は控えるか止めるかすべきだと思います。
ここは「肉製品・乳製品の真実(肉製品・乳製品は癌を促進させる作用がある)」カテゴリの記事を必ず参照してください。「ブドウ糖」と同様、この「癌と肉製品と牛乳乳製品の関係」も癌治療において非常に重要です


 なお、魚介食は癌細胞を育てる足枷にはなりません。
 著名な「丹羽耕三」医学博士も、次の記事にて『肉製品乳製品は癌細胞を育て、魚介食は正常細胞を育てる』と言われています。ここは、次の記事を参照してください。

    丹羽耕三(靱負)医学博士が語る、肉製品・乳製品の真実!
     【 肉製品・乳製品の栄養は「癌細胞の栄養」になっている!
       魚介食の栄養は「正常細胞の栄養」になっている!】


 肉製品と牛乳乳製品は癌細胞を育てる足枷となります。
 しかし、魚介食は癌細胞を育てず、正常細胞を育てることが癌研究報告によって解かっています。
 ゆえに、癌患者が摂るべき動物性食品は、肉製品と牛乳乳製品ではなく、魚介食を中心とすべきなのです。
 癌治療に有効する魚介食につきましては「癌治療に有効な「魚介食」」カテゴリの記事を参照してください。


 また「癌とブドウ糖の関係」を知るには、癌細胞がなぜ「ブドウ糖」しかエサにすることができないのか、ここの点を「癌細胞の代謝の特徴」から理解しなければなりません。
 ここを分かりやすく上手に説明されているのが、当記事でご紹介させて頂きます「福田一典」医師の『ブドウ糖を絶てば、がん細胞は死滅する! ~ 今あるがんが消えていく『中鎖脂肪ケトン食』』という著書です。実に、簡潔に解説してくださっています。

 当記事の「癌とブドウ糖の関係」の内容は、癌患者であれば熟知していて然るべきものです。
 どうぞ、当記事を熟読して頂き、癌患者であるならば、この「癌とブドウ糖の関係」の内容を深く理解し、日々の食事の糖質(ブドウ糖)の摂り方についてよく考え、留意されてください。
 そして、癌患者としての「ブドウ糖」の摂取の仕方をよく考慮されてください。

 癌細胞の唯一にして最大のエサとなり、癌細胞を大いに育ててしまう「ブドウ糖」の摂取を抑制し、癌を自然抑制するのに一番適切な『食事療法』は、糖質(ブドウ糖)の摂取に制限をかける「糖質制限食(ケトン食)」です。
 癌患者さんは、癌がより改善しやすい体内環境を築き上げるために、また、癌を不要に増殖悪性化転移進行させないために、ご自分で納得のいく「糖質制限食(ケトン食)」を必ず実行していきましょう!


 癌治療において重要な「癌とブドウ糖の関係」について、世の多くの癌患者がいまだ無知であるか無頓着な状態が続いています。それは、癌治療において重大なる「癌とブドウ糖の関係」を、通常療法の医師たちが無視、または、馬鹿にして、癌患者に対して何も説明指導していないのが大きな原因です。

 アメリカでは、2011年に、癌に対する「糖質制限食(ケトン食)」の研究が本格的に開始されています。
 外国の先進国では、癌における「糖質制限食(ケトン食)」の認識が確実に深まっているのです。
 ここは、次の記事を参照してください。

    癌と糖質制限食(ケトン食)【 癌細胞は唯一「ブドウ糖」しかエネルギー源にすることができないため、
     癌治療には「糖質制限食(ケトン食)」が有効する:江部康二 医師 】


 アメリカが癌に対する「糖質制限食(ケトン食)」の研究を本格的に始動したのは、アメリカが「癌とブドウ糖の関係」を重視し、「糖質制限食(ケトン食)」が癌を改善させるのに有利な『食事療法』であると見たからです。

 外国の先進国では、すでに「糖質制限食(ケトン食)」は癌治療を有利に進めるのに重要な『食事療法』であると認識されています。ここは、次の記事を参照されてください。

    医学的にも、科学的にも、
     ドイツなどの先進国でも「癌は糖類(糖質:ブドウ糖)を餌にする」ことは周知の事実です!
     ゆえに、癌の食事療法は『糖質制限食』を応用します!



 日本は癌利権の企みによって、わざと「癌後進国」に陥れられているので、通常療法の医師も、癌患者も、お馬鹿な人が多くていけません。

 もし、この「癌とブドウ糖の関係」をいまだご存じない癌患者さん、また「癌とブドウ糖の関係」を真剣に考えていない癌患者さんは、当記事や「癌の最大のエサは「ブドウ糖」(ブドウ糖は癌を育てて進行させる)」カテゴリの記事をよく学んで頂き、日々の食事の糖質(ブドウ糖)の摂り方を考え直し、さらに「糖質制限食(ケトン食)」の価値をよくよく悟られてください。


 「福田一典」医師は『中鎖脂肪ケトン食』という「糖質制限食(ケトン食)」を推奨されています。
 『中鎖脂肪ケトン食』の内容につきましては「中鎖脂肪ケトン食療法(福田一典 医師)」カテゴリの記事、特に、次の記事を参照されてください。「癌とブドウ糖の関係」の解説とともに、大変ためになる記事です。

    癌の『中鎖脂肪ケトン食療法』- 福田一典医師
     【 エネルギー源をブドウ糖から『ケトン体』へとシフトして、
       癌細胞だけを兵糧攻めにして死滅に追い込む、合理的な癌治療 】



 まずもって、癌患者であるならば、まず真っ先に「甘いもの」や「肉製品と牛乳乳製品」の摂取を止め、魚介食を中心した「糖質制限食(ケトン食)」を実行し、癌の自然抑制に努め、癌がより改善治癒しやすい体内環境を、真剣に「自力で」築き上げるべきです。これは「癌を本当に治す」上での重要な「癌治療のマナー」であると知り、よくよく心がけください。よろしくお願いします m(__)m

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ブドウ糖を絶てば、がん細胞は死滅する!
今あるがんが消えていく『中鎖脂肪ケトン食』


福田一典(著) 彩図社出版  2013年刊




 はじめに


 最近の統計によると、日本で1年間に新たにがんと診断される人数は約70万人、がんで死亡する人数は1年間で約35万人という数値が報告されています。
 これは、がんと診断された人の約半数は治っていないことを意味しています。
 近年の著しい医学の進歩にもかかわらず、がんの治癒率は、依然として5割を切っているのが現実なのです。
 がん治療の基本は、がんを小さいときに見つけて外科手術で完全に切除することです。
 また、がんができた部位や大きさによっては、外科手術に替わって放射線治療を行うのが有効な場合もあります。
 幸いにも、がんが早期に発見され、まだ転移も起こっていない段階で手術や放射線治療を行えば、がんを根治することは可能です。
 しかし、かなり進行した状態でがんが見つかったり、また、治療後に再発した場合などは、現代の最新医学をもってしても、がんの根治は極めて困難です。
 このように、標準治療が難しくなった場合、西洋医学では緩和治療しかない点に多くのがん患者さんが苦しんでいます。
 そして、症状の改善や延命の可能性を求めて、漢方治療のような伝統医療や民間療法やサプリメントなどを使った「代替療法」を試される患者さんも多くいます。
 代替療法とは、西洋医学の通常療法(標準治療)に替わる治療法という意味で、この中には全くのインチキもありますが、科学的根拠や有効性を示すデータが存在することも事実なのです。
 そんな「科学的根拠のある代替療法」の1つとして近年注目を集めているのが、本書で紹介する「がん細胞のエネルギー産生の異常を利用した治療法」です。
 私は、がんの代替・補完医療を専門にした診療を10年以上行っています。
 そして、その間、様々な伝統医療や民間療法やサプリメントや医薬品を用いたがん治療を試してきました。
 このような数多い代替療法の中で、がん細胞のエネルギー産生の特徴を利用した治療法は、安全で効果の高い治療法であると確信したので本書にまとめました。
 くわしいことは本文の中で解説しますが、簡潔に、この治療を行う根拠と方法を挙げると、以下のようになります。

    がん細胞は、ブドウ糖(グルコース)に対する依存度が正常細胞に比べて何十倍も高い。
    よって、がん細胞がブドウ糖を利用できなくすれば、
     正常細胞にダメージを与えず、がん細胞だけを死滅させることができる。
    そのために、食事中の糖分の摂取を減らして、
     「中鎖脂肪酸トリグリセリド(中鎖脂肪)」を多く摂取する『中鎖脂肪ケトン食(糖質制限食)』を実践する。

 がん細胞を攻撃する抗がん剤治療は、正常細胞もダメージを受けるので耐え難い副作用が問題になりますが、前述の治療法では、がん細胞だけを選択的に死滅させることが可能で、正常細胞にダメージを与えないため、副作用のないがん治療が行えるのです。
 本書の目的は、中鎖脂肪ケトン食ががんに効く根拠と、その方法を解説することですが、生化学の専門用語が多々出てくるので、難解に感じる部分もあるかもしれません。
 特に、一般の方にとって前半部分は難しいと思いますので、まず、「中鎖脂肪ケトン食」がどのようなものかを知りたい場合は、 第6章 ケトン体を増やすための『中鎖脂肪ケトン食』あたりから読んでみるのも良いでしょう。
 しかしながら、がん細胞のメカニズム、および、弱点を十分に知ることはとても重要であるため、やはり、詳細な解説の部分も読んでいただきたいと思います。
 がんに立ち向かうためには、分子レベルでがん細胞の特徴を理解するということも大切なのです。

 この本で紹介する治療法は、おもに標準治療で効果がなくなった進行がんの患者さんや、再発リスクの高いがんの治療後の患者さんに試してみてほしいと思っています。
 ただし、病状や治療の状況、あるいは服用している医薬品によっては実施できない場合もあります。
 その一例として、重度の糖尿病にかかっていたり、あるいは、肝障害や腎臓障害のある方には、この食事療法は推奨できません。
 また、中鎖脂肪ケトン食は糖質を制限する代わりに脂肪を多く摂取する食事なので、胃腸障害などの副作用が生じる可能性が考えられます。
 そのため、体調や血液検査の結果を見ながら進めていく必要があります。
 以上のような理由から、中鎖脂肪ケトン食を実施するにあたっては、この治療法を十分に理解している医師の指導のもとで行うようにしてください。
 多くのがん患者さんが、この治療法でがんを克服されることを願っています。

    銀座東京クリニック 院長 福田一典


【おことわり】
 本書で解説している食事療法は、重度の糖尿病患者の方、あるいは肝臓腎臓の機能に異常がある方などは実施しないでください。
 その他、疑問点などがありましたら、銀座東京クリニックまでお問い合わせください。

    銀座東京クリニック 電話  03-5550-3552
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 第1章 がん細胞とは何か

がん細胞は遺伝子の異常で発生する
 私たちの体は約60兆個の細胞から成り立っていますが、それぞれの細胞の分裂や増殖は遺伝子の働きによって厳密にコントロールされており、自分勝手に増殖することはありません。
 このように、細胞の分裂増殖の調節が正しく行われることで体の健康は保たれているのです。
 しかし、ある種の遺伝子の働きに異常が起きると、必要もないのに、勝手に増殖する細胞に変化することがあります。この異常な細胞によって作られた塊は「腫瘍」と呼ばれ、「良性腫瘍」と「悪性腫瘍」に区別されます。
 良性腫瘍は増殖が遅く、局所的に細胞の塊を作るだけですが、悪性腫瘍は周囲の正常な細胞や組織をも破壊してしまう性質を持ち、さらに血液やリンパ液に乗って離れた臓器に飛んで行き、そこで新たな腫瘍を形成します。これを転てん移いと言います。
 悪性腫瘍は無限に増殖し続け、ついには宿主である人間を死に至らしめる病気です。
 なお、医学的には、粘膜上皮細胞や肝臓細胞などの上皮系細胞から発生する悪性腫瘍を「癌」と呼び、筋肉軟骨神経線維芽細胞などの間質系細胞から発生する悪性腫瘍を「肉腫」と呼びますが、この本では悪性腫瘍をまとめて「がん」と記載しています(図1)。

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 がんは、遺伝子の異常(突然変異や発現異常)によって発生します。
 遺伝子の情報は細胞の核の中にある染色体のDNA(デオキシリボ核酸)に書き込まれています。
 DNAはデオキシリボース(五炭糖)とリン酸と塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)から構成される、細長い糸のような構造をした核酸で、4種類の塩基の並び方によって、アミノ酸の並ぶ順序と、どのような蛋白質ができるかが決まります。
 DNAの遺伝情報には、細胞を形作り機能させるための蛋白質の作り方と、その発現の量や時期を調節するために必要なマニュアルが組み込まれています。
 したがって、この遺伝子情報に誤りが生じると、その細胞の働きに異常が生じます。
 例えば、正常な細胞であれば、止めどなく分裂増殖を繰り返すということはありません。なぜなら、DNAの情報によって、分裂増殖のペースや限度がコントロールされているからです。
 しかし、この細胞増殖をコントロールしている遺伝子に異常が生じると、細胞は際限なく分裂を繰り返すがん細胞となるのです。
 誤りを起こす原因は、DNAに傷がついて間違った塩基に変換したり、遺伝子が途中で切れたりするためです。
 これをDNAの「変異」と呼び、DNA変異を引き起こす物質のことを「変異原物質」と呼びます。
 環境中には、たばこ紫外線ウイルス食品添加物などの変異原物質が充満しています。変異原物質は、発がん物質と同じ意味だと考えてもらって構いません。
 また、炎症で発生する活性酸素も、遺伝子に変異を引き起こすことによってがんの原因になります。


がん細胞は増殖や細胞死の制御システムが壊れている
 約2万2000個ある遺伝子のうち、がんの発生に関与する「がん遺伝子」という遺伝子が知られています。このがん遺伝子の本来の役割は、正常な細胞を増殖させることですが、異常(変異)を起こすと、無制限に細胞を増殖させることに荷担してしまいます。
 それに対して、反乱分子の出現を監視し、細胞のがん化を防いでいる「がん抑制遺伝子」も見つかっています。がん抑制遺伝子は、老朽化した細胞の死(遺伝子で制御された生理的な細胞死アポトーシス)を促し、細胞が増えすぎないようにコントロールする役割や、傷ついたDNAを修復させる役割を持った遺伝子です。
 このがん抑制遺伝子の働きが弱まると、変異した細胞のDNA修復が妨げられたり、アポトーシスで除去されなくなったりします。

 これら、がん遺伝子、および、がん抑制遺伝子というのは、正常細胞の増殖分化細胞死に関わる遺伝子のDNA変異の結果、機能異常をきたしたものです。
 そして、車で例えると、正常細胞の増殖に関して、がん遺伝子が「アクセル」の役割を、がん抑制遺伝子が「ブレーキ」の役割を果たしています。
 つまり、「がん遺伝子の活性化」は「アクセルを踏み続けている状態」であり、「がん抑制遺伝子の機能低下」は「ブレーキが故障した状態」だと言えます。
 正常細胞は必要時に分裂し、必要がなくなると分裂を停止するという制御機構が正しく働いていますが、がん細胞がこうした制御ができないのは、細胞増殖のアクセルもブレーキも故障しているためです。
 すなわち、がん細胞はアクセルとブレーキが壊れて暴走している車のようなものなのです(図2)。

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がん細胞は代謝が亢進している
 このように、遺伝子の異常によって増殖シグナルが停止せずに増殖を続けるのががん細胞ですが、がん細胞が数を増やしていくには、莫大なエネルギーと細胞を構成する成分(蛋白質や脂質や核酸)が必要です。
 そのため、正常細胞と比較すると、がん細胞ではその数倍から数十倍のエネルギー産生と物質合成が行われています。これはつまり、がん細胞は「代謝」が亢進しているということです。

 「代謝(metabolism)」とは、生命の維持のために細胞が行う一連の化学反応で、「異化catabolism)」と「同化anabolism)」の2つに大別されます。
 異化は、食物から取り入れた有機物質を分解することによってエネルギーを得る反応で、具体的には、「生体のエネルギー通貨」と言われる「アデノシン三リン酸Adenosine TriphosphateATP)」を得る過程のことです。
 一方、同化はこの逆で、ATPのエネルギーを使って蛋白質や核酸や脂肪酸など、細胞の構成成分を合成する過程です。
 簡潔に言えば、代謝というのは「エネルギーの産生と消費の過程で、糖質脂質蛋白質がその形を変えること」ですが、がん細胞では、細胞を増やすために代謝(異化と同化の両方)が非常に亢進しているのです。
 ブドウ糖を多く取り込んでATPの産生を増やし(異化の亢進)、そのATPとブドウ糖を使って核酸や脂質や蛋白質などの細胞構成成分の合成を増やす(同化の亢進)ことによって、がん細胞は数を増やしていくのです。


がん細胞の燃料を枯渇させる治療法
 前述の通り、がんは様々な遺伝子変異の蓄積によって生じますが、がん遺伝子やがん抑制遺伝子など、細胞のがん化に関連している遺伝子の数は軽く100を超えています。
 また、細胞の増殖や死を調節するシグナル伝達系は極めて複雑なネットワークを形成しているため、細胞の増殖や死を制御するルートは何十種類もあります。
 遺伝子変異の種類や、異常を起こしているシグナル伝達系は個々のがん組織によって異なり、また、同じがん組織であっても、遺伝子変異の種類が違うがん細胞が混在しています。
 すなわち、がん組織というのは、極めて不均一ながん細胞の集団なのです。
 このように、がん細胞は多様な遺伝子異常を持つため、遺伝子変異を修復する遺伝子治療や、シグナル伝達系の1つの分子を標的にした分子標的薬の効果に限界があることは明らかです。
 しかし、いずれのがん細胞にしても、増殖するためにはエネルギーを作る燃料と細胞を作る材料は必要です。
 よって、この燃料と材料の獲得を阻止すれば、そのがん細胞がどのような遺伝子異常を持っていようとも、増殖を阻止して死滅させることが可能になります。

 近年、がん細胞における代謝異常(エネルギー産生や物質合成の亢進)が、がん治療のターゲットとして注目されるようになってきています。
 アクセルとブレーキが故障して猛スピードで暴走している車を止める方法として、爆弾などで車そのものを壊して止めようという発想は、がん治療でいうと抗がん剤や放射線治療のようなものです。
 これに対し、燃料タンクからガソリンを抜き取って暴走車を止めるという方法があります。それが、がん細胞の燃料であるブドウ糖を枯渇させて、がん細胞を兵糧攻めにするという方法なのです。
 また、燃料を完全に枯渇できなくても、エンジンを動かしている電気系統を調整してエンジンを止める方法もあります。
 例えば、「低酸素誘導因子‐1(Hypoxia Inducible Factor-1HIF‐1)」という転写因子など、がん細胞の代謝亢進を引き起こしている因子を阻害すれば、エネルギー産生の指令系統を遮断する効果が得られるのです。
 なお、転写因子というのは特定の遺伝子の発現(DNAの情報を蛋白質に変換すること)を調節している蛋白質で、HIF‐1は、がん細胞の代謝亢進に必要な多くの遺伝子の発現を活性化する転写因子です(HIF‐1については、第3章でくわしく解説しています)。


がん細胞はブドウ糖を多く取り込む
 がん細胞がブドウ糖を多く取り込むことはよく知られています。
 がん細胞が数を増やしていくには、莫大なエネルギー(ATP)の産生と、細胞を構成する成分(核酸や細胞膜など)の合成が必要ですが、エネルギー産生と細胞構成成分の合成のおもな材料がブドウ糖なのです。
 実際、多くのがん細胞の表面(細胞膜)には、細胞内へのブドウ糖の取り込みを行う「ブドウ糖輸送体(Glucose Transporter)」という蛋白質の量が増えています。
 がんの検査法で「PETPositron Emission Tomography陽電子放射断層撮影)」というものがありますが、これは、フッ素の同位体で標識したブドウ糖(18F‐フルオロデオキシグルコース)を注射し、この薬剤ががん組織に集まるところを画像化することで、がんの有無や位置を調べるというものです。
 つまり、PETは、正常細胞に比べてブドウ糖の取り込みが非常に高いがん細胞の特性を利用した検査法というわけです。

 がん細胞がブドウ糖を多く取り込むことが最初に報告されたのは、1921年のことです。
 糖尿病の患者ががんを発症すると尿糖が減ることや、ブドウ糖の入った培養液にがん組織や正常組織を入れて培養する実験で、正常の筋肉組織や肝臓組織に比べて、がん組織ではブドウ糖の消費量が極めて高いことが報告されました。
 また、翌年の1922年には、がん組織には乳酸が大量に蓄積していることが報告されており、これは、がん細胞では「嫌気性解糖系」が亢進しているということを意味します。嫌気性解糖系は、乳酸菌がブドウ糖から乳酸を作り出す「乳酸発酵」と同じ反応です。
 そして、1923年から、ドイツの「オットー・ワールブルグ」博士(Otto Warburg1883-1970)のグループが、「がん組織では、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が低下し、酸素がある状態でも嫌気性解糖系でのエネルギー産生が主体である」という現象について、一連の論文を発表しています。
 ミトコンドリアとは、赤血球以外のすべての細胞にある細胞内小器官で、酸素を使ってATPを大量に生成する「細胞内のエネルギー産生装置」のようなものです。
 しかし、「がん細胞ではミトコンドリア内での酸素を使ったエネルギー産生が低下し、細胞質内で酸素を使わない嫌気性解糖系でエネルギーを産生している」という現象を、ワールブルグ博士が見つけたのです。
 このオットー・ワールブルグ博士は、「呼吸酵素(チトクローム)」の発見で、1931年にノーベル生理学医学賞を受賞したドイツの生化学者です。細胞生物学や生化学の領域で重大な基礎的発見を次々に成し遂げ、呼吸酵素以外の研究でも何度もノーベル賞候補になった偉大な科学者です。
 そんなワールブルグ博士が最も力を注いだのが、がん細胞のエネルギー代謝の研究であり、がん細胞の異常な増殖を解明するためには、エネルギー生成の反応系を研究しなければならないということから、呼吸酵素を発見したのです。
 そして、ワールブルグ博士のグループは、「がん細胞ではブドウ糖から大量の乳酸を作っていること」「がん細胞は酸素がない状態でもエネルギーを産生できること」さらに前述の通り、「がん細胞は酸素が十分に存在する状態でも、酸素を使わない方法(嫌気性解糖系)でエネルギーを産生していること」を見つけています。
 現在では、この現象は「ワールブルグ効果Warburg effect)」と呼ばれ、がん研究の重要なテーマの1つになっており、ワールブルグ効果を利用したがん治療法に注目が集まっているのです。



 第2章 細胞とエネルギー

「細胞のエネルギー通貨」の異名を持つATP
 第1章で述べた通り、がん細胞の代謝の最大の特徴は、「ブドウ糖(グルコース)の消費量が正常細胞に比べて極めて高いこと」と、「酸素がある条件でも酸素を使わない方法でエネルギーを産生している」ことです。
 その理由を理解するためには、細胞のエネルギー産生の方法を知っておく必要があります。
 生化学の教科書に載っているような専門的な内容になりますが、がん細胞の弱点を理解し、がん対策の食事療法を効果的に実践するのに役立つ知識ですので、ここで説明しておきます。

 すべての真核生物は、細胞が活動するエネルギーとして「アデノシン三リン酸ATP)」という「ヌクレオチド」を利用しています。
 ATPは、アデノシンに化学エネルギー物質のリン酸が3個結合したもので、生物が必要とする活動エネルギーを保存した、「エネルギーの通貨」とも呼べる分子です。実際、エネルギーを要する生物体の反応過程には、必ずATPが使用されています。
 このATPがエネルギーとして使用されると、「ADP(Adenosine Diphosphateアデノシン二リン酸)」と、「AMP(Adenosine Monophosphateアデノシン一リン酸)」が増えます。
 すなわち、ATP ADP+リン酸 AMP+二リン酸、というふうに分解され、リン酸を放出する過程でエネルギーが産生されるのです(図3)。

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 細胞は、ブドウ糖や脂肪酸に保存されているエネルギーをATP分子に捕獲し、筋肉の収縮や能動輸送や物質合成などといった細胞の仕事に使っています。


酸素を使ってATPを産生するミトコンドリア
 生命活動に利用されるエネルギーの源は、太陽からの光エネルギーに由来します。しかし、生物は太陽の光エネルギーを直接ATPに変換できません。
 最初に光エネルギーを化学エネルギーに変換するのは、植物の細胞に存在する「葉緑体」という細胞小器官で、ここで光エネルギーを使い、水(H₂O)と二酸化炭素(CO₂)から、ブドウ糖(C6H12O6)と酸素(O₂)を作り出します。
 これを「光合成」と言い、光合成によって、光エネルギーがブドウ糖の中に化学エネルギーとして保存されたことになります。
 そして、私たち動物は植物を摂取し、植物が光合成で作ったブドウ糖を細胞内で燃焼(分解)することによってATPを生成し、体を動かすエネルギーとして利用できるようにします(図4)。

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 ヒトの細胞内には、生命活動に必要な様々な機能を効率的に働かせるため、核やリボソームなどといった機能の異なる様々な細胞内小器官が存在します(図5)。

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 具体的な機能の一例を挙げると、核は遺伝子(DNA)を格納し、リボソームや小胞体は蛋白質を合成し、ゴルジ体は分泌蛋白質や細胞外蛋白質に糖鎖をつける働きをします。
 そして、酸素を使って糖質や脂肪酸を燃焼(酸化)させ、エネルギー(ATP)を生成する役割を持つのが、ミトコンドリアです。赤血球以外のすべての細胞には、細胞1個あたり平均約300~400個のミトコンドリアが存在します。
 また、肝臓や腎臓や筋肉や脳など、代謝が活発な細胞には数千個のミトコンドリアが存在し、細胞質の40%程度を占めています。
 体全体では、ミトコンドリアが1京(1兆の1万倍)個以上あり、全部で体重の約10%を占めると言われています。
 ミトコンドリアは、約20億年ほど前に好気性細菌の α‐プロテオバクテリアが原始真核細胞に寄生したものだという「細胞内共生説」が定説になっています。
 これはつまり、ミトコンドリアはかつて細菌だったということで、実際、見かけも細菌に似ており、長さは1~4ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)程度で、いも虫型の立体構造をしています。
 また、ミトコンドリアは2枚の膜(内膜と外膜)によって細胞質から隔てられ、内膜は複雑に入り組み、「クリステ」という無数の襞ひだや管を形成しています。
 このように、内膜が襞状にくびれているのは表面積を増やすためで、この内膜でATPの産生が行われているのです。


細胞はブドウ糖を燃焼してエネルギーを産生する
 自動車が走るためにガソリンを燃やしてエネルギーを生むのと同様、人間は動くために、ブドウ糖を燃やしてエネルギーを作ります。
 ただ、当然ながらブドウ糖はガソリンのように炎を出して燃えるわけではなく、細胞内でゆっくりと化学的に燃えます。
 燃料とは、保存されているエネルギーを利用できる形で放出することができる分子のことを指し、自動車の燃料はガソリン、細胞のおもな燃料はブドウ糖です。
 すでに述べたように、植物は光合成によって糖質を作り出しますが、動物は自分で糖質を作り出せません。よって、私たちが生きていくためには、植物が光合成を通じて作り出した糖質を細胞に取り込み、細胞内で糖質を燃焼(分解)させることによって、ATPという活動エネルギーを生成する必要があるのです。

 ブドウ糖は、食事中の糖質が小腸で消化酵素によって分解されてできる、「単糖糖類の最小単位)」です。
 なお、穀物に含まれる澱でん粉ぷんはブドウ糖が多数結合したものであり、また、砂糖はブドウ糖と果糖が結合した「二糖類」です。これらの糖質は、いずれも消化管で消化酵素によって単糖(ブドウ糖や果糖)に分解され、体内に吸収されます。
 消化管から吸収されたブドウ糖は、門脈血(胃や腸などの消化器系と脾臓から肝臓に流入する静脈血)から、まず肝臓に運ばれて肝細胞に取り込まれ、一部は肝静脈を経て全身(脳や骨格筋など)へ供給されます。


脂肪や蛋白質もエネルギー源となる
 車はガス欠になればただちに動かなくなりますが、実は、ヒトは糖質の補給がない場合でも、水さえ摂取できれば1~2ヶ月程度は生存できます。これは、脂肪や蛋白質を燃やしてエネルギーを作ることができるためです。
 食事と呼吸と体内でのエネルギー産生のあらましを「図6」に示しています。

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 私たちが食事によってエネルギー源として体内に取り入れる栄養素は糖質脂肪蛋白質で、これらを「三大栄養素」と言います。
 これらの栄養素は呼吸で取り入れた酸素を使い、ゆっくり燃焼してエネルギーを作り出します。
 このエネルギーは、体の運動や細胞の活動や体温維持など生命維持のために消費されますが、摂取エネルギーが消費エネルギーより多いとき、余ったエネルギーはおもに脂肪となって貯蔵されます。
 酸素によって最もよく燃焼し、ATP生成に用いられるのは、おもにグリコーゲンや澱粉など、糖質が分解してできるブドウ糖です。
 一方、脂肪はおもに予備エネルギー源として体内に貯蔵されますが、ブドウ糖が枯渇したときには、脂肪が燃焼してエネルギーを産生します。
 そして、蛋白質はおもに体の細胞を作るのに利用されますが、ブドウ糖も脂肪も枯渇すれば、蛋白質が分解してできるアミノ酸が燃焼されるようになります。
 このように、脂肪や蛋白質もATPを作り出す燃料となり得ますが、そのためには、ブドウ糖かブドウ糖代謝経路の中間体(アセチルCoA など)に変換される必要があります。


ブドウ糖がピルビン酸になる反応「解糖」
 ヒトの血液100ml中には、およそ80~100mg のブドウ糖が存在します。
 ブドウ糖は血液中から細胞に取り込まれ、
  解糖glycolysis)、
  TCA回路クエン酸回路、または、クレブス回路とも呼ばれる)、
 電子伝達系」における「酸化的リン酸化」を経て、二酸化炭素と水に分解され、
  エネルギー(ATP)が取り出されます(図7)。

 このうち、 の解糖では、酸素を使わずにブドウ糖に保存されているエネルギーの中から、少量が使用可能なATPとして取り出され、TCA回路と酸化的リン酸化はミトコンドリアで酸素を使って行われます。
 さらにくわしく言うと、解糖とは、炭素数6個のグルコース(ブドウ糖C6H12O6)1分子が、数段階の酵素反応を経て炭素数3個の「ピルビン酸C3H4O3)」2分子に分解される過程のことであり、2分子のATPが生成されます(図8)。

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 なお、解糖の経路は、1920~30年代にドイツの生化学者のエムデン(Gustav Embden1874-1933)とマイヤーホフ(Otto Meyerhof1884-1951)を中心として解明されました。そのため、この2人の先駆者の名前を取って「エムデン‐マイヤーホフ経路」とも呼ばれます。


酸素があると、ピルビン酸がミトコンドリアに入ってATPが生成される
 酸素の供給がある状態では、ピルビン酸はミトコンドリア内に取り込まれ、ピルビン酸脱水素酵素複合体の作用で二酸化炭素(CO2)が除去されてアセチル基になり、このアセチル基にコエンザイムA(CoA)が結合してアセチルCoA に変換され、トリカルボン酸回路(tricarboxylic acid cycleTCA回路クエン酸回路クレブス回路)と電子伝達系によってさらにATPの産生が行われます(図9)。

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 CoA は「補酵素A」とも呼ばれる、生物にとって極めて重要な補酵素であり、様々な化合物を結合することによって糖質や脂質やアミノ酸などの代謝反応に関わります。
 また、TCA回路は好気性代謝という酸素を使う代謝の中で最も重要な反応で、ミトコンドリアのマトリックス(内膜に囲まれた内側)で行われます。
 このTCA回路では、ブドウ糖からの分解産物であるアセチルCoA が段階的に代謝され、エネルギーのもとになる電子(NADH と FADH2)が発生します。
 TCA回路では、ATPは1分子も生成されませんが、ここで生成された NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)や FADH2還元型フラビンアデニンジヌクレオチド)が、ミトコンドリア内膜に埋め込まれた酵素複合体に電子を渡し、この電子は最終的に酸素に渡され、まわりにある水素イオンと結合して水を生成します。
 このように、TCA回路で産生された NADH や FADH2 の持っている高エネルギー電子をATPに変換する一連の過程を「酸化的リン酸化」と呼び、ミトコンドリア内膜の蛋白質や補酵素間で電子のやり取りを行うシステムを「電子伝達系」と呼ぶのです。
 酸素が存在している状況下では、電子伝達体(NADH と FADH2)の再酸化によって大量のATPが合成され、こうして作られたATPは、ミトコンドリアから細胞質へ出て行き、そこで細胞の活動に使われます。


酸素がなければ、酵母は発酵でATPを産生する
 日本酒やビールやワインなどといったアルコールを醸造するためには、酵母が必要です。
 酵母は、酸素がない条件では糖を分解してエタノールと二酸化炭素を作る「アルコール発酵」という代謝系でエネルギーを産生しています。
 発酵というのは、酵母や乳酸菌などが酸素のない嫌気的条件でエネルギー(ATP)を産生するための反応系であり、ブドウ糖やショ糖などの有機化合物を酸化してアルコールや有機酸(乳酸など)、あるいは二酸化炭素などを生成します。
 ちなみに、アルコール発酵では1分子のブドウ糖(C6H12O6)から、2分子のエタノール(C2H5OH)と、2分子の二酸化炭素(CO2)が生成されます。
 私たちは、アルコール飲料や様々な発酵食品(納豆、味噌、ヨーグルト、チーズ、キムチ、漬け物など)を飲んだり食べたりしていますが、これらは、酵母や乳酸菌が酸素のない条件下で生きていくために行っている発酵の副産物に過ぎません。
 実際、酵母に酸素を与えると、発酵を行わないためアルコールは生まれません。酸素がある好気的な条件で酵母にブドウ糖を与えると、水と二酸化炭素に分解してしまうのです。
 なぜなら、そのほうが多くのATPを産生することができ、増殖に有利になるからです。


嫌気性解糖系は発酵と同じ
 一方、動物細胞の場合、酸素の供給が十分でなければ、細胞質において乳酸脱水素酵素の作用でピルビン酸が乳酸に変換されます。
 この生化学反応は「嫌気性解糖系anaerobic glycolysis)」と呼ばれ、細胞が無酸素状態でブドウ糖からATPを作る反応のことです。そしてこれは、乳酸菌が糖質を発酵させて乳酸を作るときの化学反応(乳酸発酵)と全く同じです。
 つまり、運動をして筋肉細胞に乳酸が溜まるのは、酸素の供給が不足して嫌気性解糖が進むからなのです。
 酸素が十分にある状態では、ミトコンドリア内で効率的なエネルギー産生が行われるため、1分子のブドウ糖から32分子のATP()が作られます。
酸化的リン酸化で生成するATPの量は1分子のブドウ糖あたり30~38分子など、複数の説があり確定していませんが、ここでは米国の生物学の教科書の『Lifethe Science of Biology』の記述に準拠して、32分子にしています
 ところが、嫌気性解糖系に行った場合は、1分子のブドウ糖から2分子のATPしか作られません。
 動物細胞は、ブドウ糖をピルビン酸まで分解した後、酸素があればTCA回路と電子伝達系による酸化的リン酸化によってATPを生成しますが、酸素がない場合はピルビン酸からさらにアルコール(酵母)や 乳酸(筋肉や乳酸菌)に分解します。
 このように、無酸素状態のとき、ピルビン酸で止まらずに乳酸やエタノールに変換される理由は、解糖系で還元された NADH (還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を酸化型の NAD+ に戻すためです。
 くわしく言うと、NAD+ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は、酸化還元反応における電子伝達体として機能しており、酸化型(NAD+)と 還元型(NADH+H+)の2種類の形で存在しますが、NAD+ は解糖系の反応に必要で、NAD+ が枯渇すると解糖系が進行しなくなるため、解糖系で還元型になった NADH+H+ を NAD+ に戻す目的で、乳酸(乳酸発酵)やエタノール(アルコール発酵)が作られるのです(図10)。

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 このように、細胞は発酵を通じて NAD+ を補充することにより、さらに多くのブドウ糖を解糖系で代謝できるようになります。
 なお、乳酸は血液で肝臓に運ばれ、乳酸脱水素酵素によってピルビン酸に変換され、ブドウ糖に再生されます。この過程を「糖新生」と言います。
 この糖新生で再生されたブドウ糖は血中に放出され、筋肉でエネルギー源として再利用されます。



 第3章 がん細胞の特徴

正常細胞は酸素があれば、酸素を使ってエネルギーを生成する
 酸素を使ってATPを産生する代謝系を「好気呼吸」と言い、逆に、酸素を使わずにATPを産生する代謝系を「嫌気呼吸」と言います。
 アルコール発酵や乳酸発酵など、発酵過程の代謝は嫌気呼吸になりますが、この嫌気呼吸(発酵)は、好気呼吸に比べてATPの産生効率が極めて悪く、その産生量には格段の差があります。
 そのため、動物の細胞は基本的には酸素を使い、ミトコンドリアでブドウ糖や脂肪酸を水と二酸化炭素に完全に分解(酸化)することで、効率良くエネルギーのATPを生成しています。
 しかし、酸素の供給が間に合わないときは嫌気性解糖系でATPを作らざるを得ません。
 例えば、全力で100メートルを走るときのように、筋肉が短時間で大量のエネルギーを必要とするときは、筋肉細胞は嫌気的なブドウ糖の分解によってATPを作り、このとき乳酸が大量に作られます。この反応は乳酸菌の乳酸発酵と全く同じです。
 一方、酸素の供給が十分にある有酸素運動を行う際などは、筋肉細胞は酸素を使ってミトコンドリアでブドウ糖を酸化してATPを産生します。
 このように、通常の細胞では、酸素があればTCA回路と酸化的リン酸化でATPを産生するようになっているのです。


がん細胞は酸素があっても酸素を使わない
 一方、がん細胞では嫌気性解糖系が亢進しているので、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化は抑制されているのが特徴です。これはつまり、酸素が十分にあっても、ミトコンドリアでの酸素を使ったエネルギー産生を行わないということです。
 このように、がん細胞は酸素があっても酸素を使った好気性呼吸を行わないことが、酵母や正常細胞と異なる点(表1)であり、このため、ブドウ糖の取り込みが正常細胞の何十倍も高くなっています。

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 酸素があっても嫌気性解糖系が抑制されない理由の1つとして、「低酸素誘導因子‐1HIF‐1)」という転写因子が、恒常的に異常に活性化していることが挙げられます。
 転写因子というのは、特定の遺伝子の発現(DNAの情報を蛋白質に変換すること)を調節している蛋白質のことで、HIF‐1は、解糖系酵素の遺伝子転写を促進して解糖系を亢進し、TCA回路に行く経路を抑制する作用があります。
 正常細胞では、低酸素状態になるとこのHIF‐1が活性化されて嫌気性解糖系が進行するのですが、酸素があるときにはHIF‐1が不活性化され、嫌気性解糖系が抑制される仕組みになっています。
 つまり、正常細胞ではHIF‐1によって、好気呼吸と嫌気呼吸のスイッチの切り替えが起こる一方、がん細胞では、HIF‐1の上流のシグナル伝達系(PI3K/Akt/mTOR経路という)が活性化されているので、低酸素状態でなくてもHIF‐1が活性化しています。
 このため、がん細胞では酸素が十分にあっても低酸素状態のスイッチが切れず、嫌気性の代謝が続くことになるのです。


HIF‐1の役割
 細胞が酸素不足に陥った際に誘導されてくる転写因子であるHIF‐1は、α と β の2つのサブユニットからなるヘテロ二量体です。
 このうち、βサブユニットは定常的に発現していますが、HIF‐1α は酸素が十分に存在するときにはユビキチン化して26Sプロテアソームで分解され、活性がなくなります。
 逆に、低酸素になるとHIF‐1αは安定化し、核に移行して、遺伝子の低酸素反応エレメント(hypoxia response element)に結合し、遺伝子の発現を誘導します。

 HIF‐1は、各種解糖系酵素、グルコース輸送蛋白、血管内皮増殖因子、造血因子エリスロポエチンなど、多くの遺伝子の発現を転写レベルで促進し、細胞から組織個体に至るすべてのレベルの低酸素適応反応を高める働きをしていますが、一方で、TCA回路につながるピルビン酸脱水素酵素(ピルビン酸からアセチルCoA を生成する酵素)を抑制して、酸化的リン酸化を積極的に抑える作用もあります。
 さらにHIF‐1は、がん細胞の増殖や転移浸潤や悪性化進展において鍵になる100以上の遺伝子の発現を調節しており、この中には、血管新生、エネルギー代謝、細胞増殖、浸潤、転移などに関与する多くの遺伝子が含まれています。
 腫瘍血管の新生は低酸素で誘導されますが、血管新生に関わる40以上の遺伝子の発現を誘導するHIF‐1は、血管新生促進因子の産生スイッチを入れるマスタースイッチとも言えます。
 そのため、HIF‐1の働きを阻害すれば、血管新生を阻害してがん細胞の増殖を抑えることができるのです。
 また、HIF‐1は低酸素状態のときだけでなく、がん細胞の増殖シグナル伝達系であるPI3K/Akt/mTORシグナル伝達系を介しても活性化されます。
 したがって、がん細胞では低酸素状態でなくてもHIF‐1活性が常時亢進しており、酸素があっても嫌気性解糖系のスイッチが切れないのです。


がん細胞が酸素を嫌う理由
 まだ酸素が存在しない太古の地球に生きていた生物は、嫌気性解糖系を行っていました。
 しかし、海中に緑藻類が発生し、光合成によって大気中に酸素を吐き出し始めると、嫌気的な環境で生きていた生物は、酸化力の強い酸素に触れてダメージを受けるようになりました。
 さらにその後、空気中に酸素が溜まり始めた時期には、嫌気性解糖系を行っていた原始真核生物の多くが絶滅していきました。嫌気的な生き物にとって酸素は毒になるのです。
 このような状況で誕生したのが、酸素を使ってATPを生成する好気性細菌でした。
 第2章でも述べた通り、真核細胞のミトコンドリアは、好気性細菌の α‐プロテオバクテリアが原始真核細胞に寄生したものだという「細胞内共生説」が定説になっています。
 好気性細菌は、生体にダメージを与える酸素をブドウ糖に結合させ、二酸化炭素と水に分解し、さらにその過程でATPを大量に生成することができます。このため、酸素による悪影響に苦しんでいた原始真核生物にとって、好気性細菌との共生は好都合だったのです。
 この細胞内共生によって、酸素が豊富な環境下での生物の進化が促進されることとなりました。酸素による燃焼反応を利用すれば、莫大なエネルギーを得ることができるからです。
 細胞の中で酸素を消費するのは、ミトコンドリアの電子伝達系ですが、電子伝達系で酸素を使い、ATPが産生される過程では多量の「活性酸素」が発生します。この活性酸素というのは、酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものの総称です。
 酸化というのは、物質に酸素が化合する反応で、この際、酸化される物質は酸素から電子を奪われます。通常、酸素は相手から2つの電子を奪いますが、まれに1個しか取り込めない場合があり、その際に発生するのが活性酸素なのです。
 活性酸素は電子が1個足りないため、他の物質から電子を奪う(酸化する)作用が強く、酸素以上に強い酸化力を持ちます。
 そして、活性酸素によって遺伝子(DNA)が傷つけられれば、突然変異を起こして「がんの原因」になることがあり、また、蛋白質や細胞膜が酸化されれば細胞の老化が進みます。

 呼吸で体内に取り込まれた酸素の約2~3%は、電子伝達系でのエネルギー代謝時に還元され、「スーパーオキシドアニオンO²⁻・)」「過酸化水素H2O2)」「ヒドロキシルラジカルOH・)」あるいは「一重項酸素1O2)」などの活性酸素に変わると言われています。

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上図は「活性酸素の種類」です


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活性酸素は、体内で「上図の順番」で発生しています


 また、細胞内における活性酸素の主要な発生源はミトコンドリアなのですが、ミトコンドリアから発生した活性酸素は、ビタミンEやビタミンCなどの抗酸化物質、およびスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)やカタラーゼといった抗酸化酵素によって消去されます。
 つまり、正常細胞には、活性酸素で障害を起こさないようにするための防御機構が備わっているのです。
 ところが、がん細胞ではこれらの抗酸化力(抗酸化物質や抗酸化酵素の量)が低下しています。これは、もともとがん細胞が酸素を使わない代謝系でエネルギーを産生し、ミトコンドリアの酸化的リン酸化の活性が低下しているためです。
 よって、がん細胞は、活性酸素のダメージによって細胞死や細胞傷害を起こさないために、ミトコンドリアの活性、すなわち酸化的リン酸化をさらに抑制する必要があります。このようにして、がん細胞はますます酸素を使わないようになるのです。
 これはつまり、がん細胞は酸素を使わない生き方を選ぶほうが生存に有利になるということであり、ワールブルグ博士の言葉で表現すれば、「がんとは嫌気的な生き物」なのです。
 そして、逆に言えば、がん細胞は酸素を使った代謝が増えれば死滅するという弱点を持っているということになります。
 このように、がん細胞は酸素を使わない代謝(嫌気性解糖系)に頼っているため、ブドウ糖の取り込みが増え、ブドウ糖への依存度が非常に高くなっています。「がん細胞はブドウ糖中毒に陥っている」と言っても過言ではありません。

 「ミトコンドリア老化説」という仮説があります。
 これは、老化やそれに伴う多くの病気が、細胞呼吸の際にミトコンドリアから漏れ出す活性酸素によって引き起こされるという考え方で、例えば、運動(酸素を消費する行為)などを積極的に行うことは、老化を促進するというものです。
 また、体重あたりの酸素消費量が少ない動物ほど長生きするというデータもあります。
 つまり、ゾウやカバやウマがネズミやリスより寿命が長いのは、体重あたりの酸素消費量が少ないためであり、逆に、酸素消費が多ければ活性酸素が多く発生して老化が早く進むということです。
 この説にのっとれば、がん細胞は、できるだけ酸素を使わないほうが寿命を延ばせるということを分かっているようにも思えます。


がん細胞におけるワールブルグ効果の重要性
 がん細胞で嫌気性解糖系が亢進している(酸素を使わずにエネルギーを産生する)ことを「ワールブルグ効果」と言いますが、この効果が起こる理由として、ワールブルグ博士自身は「がん細胞ではミトコンドリアでのエネルギー産生に何らかの異常があるため、ATP産生の不足をきたし、その代償作用として嫌気性解糖系の活性が高くなっている」と考えていました。
 しかし、その後の研究で、多くのがん細胞においてミトコンドリアの機能自体は正常であることが明らかになりました。
 そのため、なぜ、がん細胞ではミトコンドリアでの酸化的リン酸化が低下し、酸素が存在する状況でも嫌気性解糖系が亢進するのかということが、長い間謎のままになっていたのです。
 がん細胞は増殖が早く、血管の新生が追いつかないので酸素不足になりがちです。よって、ワールブルグ効果が起きるのは「がん細胞が低酸素状況に適応するための単なる結果に過ぎない」という意見が昔は主流でした。
 しかし最近の研究では、ワールブルグ効果が、細胞のがん化において「重要かつ必要なもの」という考えが主流になってきています。
 具体的に言うと、「がん細胞が増殖するために必要な核酸脂肪酸アミノ酸の合成量を増やせる」「血管が乏しい低酸素状態でも増殖できる」「ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を抑制すると細胞死(アポトーシス)が起こりにくくなる」「乳酸が免疫細胞の働きを抑制する」「がん組織の周辺を酸性化することでがん細胞が浸潤しやすくなる」など、ワールブルグ効果が、がん細胞の生存と増殖のために好条件をもたらしていることが明らかになってきているのです(図11)。

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ブドウ糖はがん細胞の生命線
 嫌気性解糖系が亢進しているがん細胞は、正常細胞と比較して、数倍から数十倍のエネルギー産生と物質合成が行われています。これは、がん細胞が数を増やしていくには、莫大なエネルギー(ATP)と、細胞構成成分(蛋白質や脂質や核酸)が必要だからです。
 そして細胞は、解糖系やペントース・リン酸経路などといった細胞内代謝系によって、ブドウ糖から細胞構成成分を作ることができるため、がん細胞では、正常細胞よりもブドウ糖の取り込みが増えているのです。
 また、がん細胞はミトコンドリアでの酸化的リン酸化を低下させることで、細胞死を起こしにくくしている(アポトーシスに抵抗性になろうとしている)ことが知られています。
 細胞分裂しない神経や筋肉細胞を除いて、正常な細胞は、古くなったり傷ついたりするとアポトーシスというメカニズムで死にます。人間の細胞は、毎日3000億個以上(約200g)の細胞がアポトーシスで死に、新しい細胞が増殖して入れ代わっています。
 このアポトーシスが起きる際には、ミトコンドリアの電子伝達系や酸化的リン酸化に関与する物質(チトクロームCなど)が重要な役割を果たすのですが、がん細胞では、アポトーシスを起こりにくくするために、あえてミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を抑え、必要なエネルギーを細胞質における解糖系に依存していると解釈できるのです。
 実際、「ジクロロ酢酸ナトリウム」という薬を用いて、がん細胞のミトコンドリアにおけるTCA回路を活性化させると、がん細胞にアポトーシス(細胞死)を引き起こすことができることが報告されています。
 このため、ジクロロ酢酸ナトリウムはがんの代替医療として臨床でも使用され、有効性が報告されています(第9章を参照)。
 また、嫌気性解糖系でのブドウ糖の代謝によって乳酸が増えると、がん組織が酸性になり、がん細胞の浸潤や転移に好都合になります。
 なぜなら、がん組織が酸性化すると正常な細胞が弱り、結合組織を分解する酵素の活性が高まるため、がん細胞が周囲に広がりやすくなるのです。さらに、乳酸には、がん細胞を攻撃する「細胞傷害性T細胞」の増殖や「サイトカイン」の産生を抑制する作用や、がんに対する免疫応答を低下させる作用があります。
 加えて、嫌気性解糖系でエネルギーを産生するということは、血管が乏しい酸素の少ない環境でも増殖が可能になるということです。また、すでに述べた通り、酸素を使わないことで「酸化ストレス」を軽減できるという点も、がん細胞にとってメリットになります。
 以上のような複数の理由から、がん細胞では「嫌気性解糖系」および「ブドウ糖の取り込み」が亢進しているのです。
 そして、この「ブドウ糖の取り込み」亢進こそが、がん細胞の生存や増殖や転移を支えている、と言っても過言ではありません。


最後の部分で『「ブドウ糖の取り込み」亢進こそが、がん細胞の生存や増殖や転移を支えている 』とありますが、癌細胞の生命線は「ブドウ糖」です。これは、科学的医学的に解明されている、世界の「癌の常識」です。
 癌患者であるならば、当記事で解説されている「癌とブドウ糖の関係」を熟知し、日々の食事の「ブドウ糖」の摂取に対して最大限の注意を払わなければなりません。癌患者が糖質〔ブドウ糖〕を無制限で摂取すれば、癌を不要に育てて進行させる羽目になることを「ゆめゆめ」忘れないでください。
 「ゆめゆめ」とは、漢字で「努々」と書き、その意味は「決して」ですが、ここは「夢々」でも一切構いません。ですから、忘れやすい癌患者さんは、当記事を読んだあと、毎日「癌とブドウ糖の関係」を「夢」で必ず見といてください!〔ただ、この「夢々」は、国語のテストでは思いっきし × になります。これが通じるのは「癌とブドウ糖の関係」の場合に限ります。ここも「努々」忘れないでください。何だか、かえって「忘れちゃいけないこと」が増えてしまって ごめんなさい‥参照記事
 どうぞ、当記事を何度も読み込んで「癌とブドウ糖の関係」について理解を深められ、癌患者が糖質〔ブドウ糖〕を制限する価値〔糖質制限食ケトン食〕を悟るのに当記事をお役立てください。よろしくお願いします
ブログ管理人



 第4章 糖質の多い食事ががんを増やす

インスリンの役割
 人間の体は、食物からブドウ糖を吸収して血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が上昇すると「インスリン」が分泌され、血糖値が一定値以上にならないように調節されています。
 インスリンは、血糖値の上昇を感知して膵臓の「ランゲルハンス島」という組織の β細胞から分泌され、ブドウ糖の筋肉組織や脂肪組織への取り込みを亢進し、解糖系酵素の活性を高めてブドウ糖の利用を促進します。
 また、肝臓ではグリコーゲンの合成を促進して分解を抑制し、脂肪組織では脂肪の合成を促進して分解を抑制します(図12)。

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 このように、インスリンはブドウ糖の分解(異化)とグリコーゲンや脂肪の合成(同化)の両方を高めることによって、血糖値を下げているのです。
 インスリンには、24時間ほぼ一定量が出続ける「基礎分泌」と、糖質を摂取して血糖値が上がったときに出る「追加分泌」の2種類があります。
 人体は、何も食べていないときでも少量のインスリンを必要としていて、インスリンが完全に枯渇してしまえば、体のほとんどの組織でエネルギー代謝が正常に行えなくなります。そのためにインスリンの基礎分泌があるのです。
 一方、糖質を摂取して血糖が上昇したときに追加分泌されるインスリンは、血液中のブドウ糖を骨格筋や心筋などの細胞内に取り込み、エネルギー源として使えるようにします。
 また、インスリンは余分なブドウ糖を体脂肪に変えるという働きもしています。
 すなわち、インスリンはブドウ糖を分解してエネルギーを産生する一方で、ブドウ糖を体脂肪に変えることで、血液中のブドウ糖を減らす役割も担っているのです。


発がんリスクを高める糖尿病と肥満
 そんなインスリンの分泌量が低下したり、あるいは働きが弱くなってしまったために、血糖値が高い状態が続くのが糖尿病です。
 糖尿病には、膵臓のランゲルハンス島が破壊されてインスリンを分泌できないために発症する「1型糖尿病」と、肥満や運動不足が原因となって発症する「2型糖尿病」という2つのタイプがありますが、日本人の糖尿病のほとんどは2型糖尿病であり、中高年の太った人に多いのが特徴です。
 2型糖尿病は、遺伝的素因を持つ人(血縁の人に糖尿病の人がいるなど)に起こりやすいのですが、必ずしも遺伝的素因だけで起こるわけではなく、過食運動不足肥満ストレスなどの要因が加わって発症します。
 そして、こうした糖尿病の発症要因となる食生活や生活習慣は、がんの発生や再発のリスクを高める要因とも一致しているのです。
 つまり、糖尿病の存在は、がんの発生率や治療後の再発率を上げるということです。
 実際、日本で行なわれた大規模調査(約10万人を対象にした国立がんセンターの追跡調査)では、糖尿病と診断されたことのある人は、ない人に比べて20~30%ほど「がんの発生率」が高くなることが明らかになっています。
 この調査では、糖尿病がある人の「がんの発生率」は糖尿病がない人に比べて、男性は肝臓がんが2.24倍、腎臓がんが1.92倍、膵臓がんが1.85倍、大腸がんが1.36倍、女性の場合は、卵巣がんが2.42倍、肝臓がんが1.94倍、胃がんが1.61倍高かったという結果が得られました。
 また「国立国際医療研究センター」の研究グループが、1960年代以降の世界中の論文をもとに、男女約25万7000人分のデータを解析した結果が報告されていますが、糖尿病患者は糖尿病でない人に比べ、何らかのがんにかかる率は11%、がんが原因で死亡する率は16%高かったという結果が得られています。
 さらに、糖尿病があると「がんの進行」が早く、転移しやすいことが指摘されており、また、多くのがんにおいて、高血糖が予後を悪くする要因であることも良く知られています。
 一方、肥満も糖尿病と同様、「がんの発生率」を上昇させます。
 肥満は、閉経後の乳がん、結腸直腸がん、食道がん、肝臓がん、胆嚢がん、膵臓がん、腎臓がん、子宮がんなど、多くのがんの発生率を高めることが明らかになっています。
 さらに肥満は「がん治療後の再発率」も高め、生存期間を短くするという報告が多数あります。
 このように、糖尿病や肥満が「がんの発生や再発のリスク」を高めるのは、糖尿病患者や肥満の人の、血中のブドウ糖とインスリンの濃度が高くなっていることがおもな理由と考えられています。


高血糖や肥満ががん細胞の増殖を促進する理由
 がん細胞がエネルギー源としてブドウ糖を大量に取り込むということは、すでに解説してきた通りです。
 そのため、血中のブドウ糖の濃度が高い状態である高血糖は、がん細胞の増殖について有利に働きます。また、高血糖は活性酸素の産生を高め、血管内皮細胞や基底膜にダメージを与えて血管透過性を高め、がんの転移を起こしやすくするという意見もあります。
 さらに、高血糖はマクロファージを活性化して炎症性サイトカイン(TNF‐α や IL‐6 など)の産生を刺激します。この炎症性サイトカインは、がん細胞の増殖や浸潤や転移を促進するのです。
 また、肥満で脂肪組織が増えている場合にも、炎症性サイトカインの産生が高まります。
 このように、高血糖や肥満の人は、体内の炎症性サイトカインの産生が高まっているため、がんを発生しやすい体質になっているのです。
 加えて、高血糖は免疫細胞へのビタミンCの取り込みを阻害します。
 ビタミンCとブドウ糖は似た構造をしているので、細胞内へのビタミンCの取り込み(輸送)は、ブドウ糖の取り込みを担当する「グルコース・トランスポーター糖輸送担体)」によって行われます。したがって、高血糖になると、そのぶんビタミンCの細胞への取り込みが阻害されてしまうのです。
 ビタミンCは、免疫細胞が活性化したり増殖するために必要なので、ビタミンCの取り込みが低下すれば免疫細胞の働きも低下します。
 すなわち、高血糖はがん細胞に対する免疫力を低下させる原因にもなっているのです。


「高インスリン血症」だけでも、発がんが促進される
 2型糖尿病を発症する患者さんは、発症前の数年間、「高インスリン血症」が見られると言われています。これは文字通り、インスリンが過剰に分泌されているという状態です。
 インスリンの働きに影響する様々な生理活性物質は脂肪細胞から分泌されていますが、例えば、インスリンの働きを高める作用を持つ「アディポネクチン」という蛋白質は、肥満によって内臓脂肪が増えると分泌量が減ります。
 このように、アディポネクチンの血中濃度が低下すると、インスリン抵抗性(インスリンの作用低下)が高まりますが、体はそれを補うために、インスリンの分泌量を増やして血中のインスリン濃度を高めて代償しようとします。
 これが「高インスリン血症」という状態ですが、この段階では、インスリンの分泌増加により、血糖値はまだあまり高くないため、糖尿病とは診断されません。
 しかし、その後、インスリンを分泌するランゲルハンス島から十分なインスリンが分泌されないようになると、高血糖状態が持続して糖尿病と診断されるのです。

 ところで、米国のある疫学研究によれば、糖尿病と診断された人よりも糖尿病の前段階(プレ糖尿病)の人のほうが「発がんリスク」が高いという報告があります。
 これはつまり、高インスリン血症の存在が「発がんリスク」を高める大きな原因の1つとみなされているということであり、もっと具体的に言えば、肥満や運動不足による糖尿病予備軍の人々は、インスリン抵抗性による高血糖を抑えるためにインスリンが過剰に分泌されるので、発がんを促進しやすくなると考えられているのです。
 なぜなら、実は、インスリン自体に『がん細胞の増殖と代謝を促進する作用』があるからです。
 実際、大腸がんの患者さんは健常な人と比べて、血糖値や血中のインスリン濃度が高いという報告があります。
 また、乳がんについては、インスリン受容体が過剰に発現しているという報告があり、高インスリン血症が肝臓における性ホルモン結合グロブリンの産生を抑制するため、フリーのエストロゲンが血中に増えて、乳がん細胞の増殖を促進することも指摘されています。
 さらに、ある種のがん細胞ではインスリン感受性が亢進している、つまり、インスリンが『がん細胞の増殖やエネルギー代謝を亢進しやすくしている』ことが報告されています。
 以上のようなことは、高インスリン血症が、肥満や高血糖とは独立した「発がんリスク」であるということを示しています。
 すなわち、肥満や高血糖でなくても、血中のインスリン濃度が高いだけで、発がんが促進されるということです。
 培養したがん細胞を使った実験で、培養液のブドウ糖濃度を高めると、がん細胞の増殖や転移や浸潤が促進されます。そして、高濃度のブドウ糖がある状態でインスリンを添加すると、増殖シグナル伝達系の刺激によって増殖や浸潤能はさらに促進されます。
 これは生体でも同様で、食事のたびに血糖やインスリンが上昇すると、その都度、がん細胞の増殖が刺激されることになるのです。
 また、インスリンはがん細胞の増殖を促進する「インスリン様成長因子‐1IGF‐1)」の活性を高めます。
 具体的に言うと、高インスリン血症が、IGF‐1の活性を制御している「IGF‐1結合蛋白」の肝臓での産生量を減少させるため、その結果、IGF‐1の活性が高まるのです。
 そして、大腸がん、前立腺がん、乳がんでは、インスリンの濃度が高く「IGF‐1結合蛋白」が少なければ、予後が悪いという結果が報告されています。
 このように『がん細胞の増殖や血管新生や転移を促進する作用』を持つIGF‐1は、インスリンと構造が似ており、さらに「IGF‐1受容体」と「インスリン受容体」も類似しています。また、IGF‐1とインスリンが交差反応することが知られています。
 このため、高インスリン血症下においては、インスリンが「IGF‐1受容体」にも結合し、IGF‐1と同じように、がん細胞の増殖を促進してしまうのです。

インスリン」と同様に、「インスリン様成長因子‐1IGF‐1)」の活性を高め、癌の発生、及び、癌の増殖悪性化転移を促進してしまうのが、肉製品、牛乳乳製品です。ここは、次の記事を参照してください。

    肉製品、牛乳・乳製品は、ロイシン・インスリン・インスリン様成長因子(IGF)による
     「mTORC1」の活性化により、癌の増殖を刺激して促進する食品! - 福田一典 医師


 肉製品、牛乳乳製品は、「ロイシン」「インスリン」「インスリン様成長因子‐1IGF‐1)」による「mTORC1」の活性化により『癌の増殖を刺激して促進する』食品であることが科学的医学的に解かっています。
 特に、牛乳乳製品に含まれる「牛乳タンパク質」は、癌患者にとって本当に危険です。研究論文では「牛乳タンパク質」における『癌の増殖を促進する作用』は「精製糖質(精白糖質)」を遥かに上回るデータが出ています。
 癌患者における牛乳乳製品の危険性につきましては、ぜひ、次の記事をご覧ください。大変、参考になります。

    牛乳・乳製品は、本当によく癌を育ててくれます!(牛乳・乳製品に関する「11記事」のまとめ)
     【 京都大学名誉教授:からすま和田クリニック院長・和田洋巳 医学博士 】


 肉製品、牛乳乳製品につきましては「肉製品・乳製品の真実(肉製品・乳製品は癌を促進させる作用がある)」カテゴリの記事をよく参照されておいてください。よろしくお願いします
ブログ管理人


がん細胞の増殖進展のカギを握るIGF‐1
 70個のアミノ酸からなるIGF‐1は、体の成長を促進する成長ホルモンが肝臓に働きかけることで分泌されるのですが、この際、標的組織の細胞分裂を刺激するため、多くの臓器や組織の細胞が「IGF‐1の受容体」を持っています。
 そして、これらの細胞から発生するがん細胞の多くもまた、「IGF‐1受容体」を持っているのです。
 前述の通り、IGF‐1は臓器などを刺激して成長や再生を促すので、アンチエイジングの領域で若返りのホルモンとして利用されたりもしますが『がんを促進する』という問題があります。
 実際、IGF‐1の分泌が少ない人ほど「がんによる死亡率」が低い、あるいは長寿であるという報告もあります。さらに、IGF‐1の働きを阻害する「IGF‐1結合蛋白」の多い人のほうが長生きするという報告もあります。

 また、米国からは、血中のIGF‐1の濃度が高い高齢者男性は「がんを発生するリスク」が高いという疫学研究の結果が報告されています。
 この研究では、50歳以上の男性633人を対象に、IGF‐1値を測定した後18年間の追跡調査を行った結果、試験開始時にIGF‐1値が100ng/ml を超えていた男性の「がんでの死亡のリスク」は、IGF‐1値が低かった男性のほぼ2倍であったということです(J Clin Endocrinol Metab.95(3):1054-1059. 2010)。
 その他の研究でも、血清IGF‐1濃度が高いほど、前立腺がん、乳がん、肺がん、大腸がん、膵臓がんの発生率が高くなることが示されています。
 そして、すでに述べた通り、IGF‐1とインスリンが交差反応することが知られており、IGF‐1とインスリンはそれぞれの受容体に結合して細胞を刺激すると、細胞増殖と代謝を促進するシグナル伝達経路(PI3K/Akt/mTOR/HIF‐1α 経路 と Ras/Raf/MAPK経路)を活性化して、栄養素の取り込みやエネルギー産生を高め、『がん細胞の血管新生や増殖や浸潤や転移を促進』し、さらに「抗がん剤抵抗性」も高めます(図13)。

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 つまり、糖質の多い食事を摂って血糖値が上がると、インスリンの分泌が増えてIGF‐1の産生と活性が高まるため、「発がん率」も上昇してしまうということです。


三大栄養素の摂取量の適正比率
 私たちが生きていくために必要なエネルギーと物質(細胞構成成分やホルモンなど)は、食事を通じて摂取する炭水化物と脂肪と蛋白質の「三大栄養素」から作り出されています。
 つまり、炭水化物脂肪蛋白質を燃焼(酸化)させることによって、生命のエネルギー源であるATPを作り、さらに、これらの栄養素を原料にして細胞膜や核酸などの生体高分子を合成して新しい細胞を作ったり、細胞の働きを調節するホルモンや成長因子などの生理活性物質を産生しているというわけです。
 ちなみに、実は、炭水化物脂肪蛋白質という三大栄養素以外にビタミンとミネラルも必要なので、この5つが「五大栄養素」と呼ばれています。
 ビタミンとミネラルは、生体内の化学反応を行う酵素の働きに重要な役割を果たしますが、ここでは、エネルギー産生の原料になる炭水化物脂肪蛋白質の3つに絞って話を進めていきたいと思います。

 体が消費するエネルギーの量や食事に含まれる熱量を表す単位として、「カロリー」が使われていることは、多くの方がご存知だと思います。
 人間が何もせずじっとしていても、生命活動を維持するために、成人男性で1日約1500キロカロリー、成人女性で1日約1200キロカロリーのエネルギーが消費されており、これを「基礎代謝量」と言います。
 また、仕事や運動をするとその身体活動に応じたエネルギーが必要になります。
 例えば、デスクワークは1時間あたり約100キロカロリーを消費し、普通に歩行すると1時間あたり150~200キロカロリーを消費します。エアロビクスやジョギングなどの運動は、その運動強度に応じて1時間に200~500キロカロリー程度を消費します。
 私たちは、こうした消費エネルギーに見合ったカロリーを食事から摂取することによって、生命活動を維持しているのです。
 3大栄養素の1g あたりのカロリーは、炭水化物と蛋白質が4キロカロリー、脂肪が9キロカロリーで計算されます。
 つまり、炭水化物を100g 食べると400キロカロリーを、脂肪を100g 食べると900キロカロリーを摂取したことになります。
 現代栄養学では、摂取カロリーから計算した三大栄養素の好ましい摂取比率として、炭水化物が60~65%、脂肪が20~25%、蛋白質が10~20%という数字が提唱されています。
 つまり、体重60kg の人の平均的な摂取カロリーが約2400キロカロリーだとすると、1日に、炭水化物を1440~1560キロカロリー(360~390g)程度、蛋白質を240~480キロカロリー(60~120g)程度、脂肪を480~600キロカロリー(53~66g)程度摂取すべきだというわけです。
 なお、日本食はこの比率に近いため、健康的な食事であると言われています。


炭水化物が主食になったのは人類の歴史の中のわずかな期間でしかない
 前述の通り、近代栄養学では、全カロリーの60~65%を炭水化物から摂取することを推奨しています。これは、肉類や脂肪の摂り過ぎは健康に良くないというのがおもな根拠です。
 しかし、穀類やイモ類を主食にする食事で人類が生活してきたのは、約700万年におよぶ人類の長い歴史の中の、ごく短い期間であるという事実があります。
 具体的には、人類はその歴史の中で、99.8%以上の期間は、炭水化物よりも脂肪の摂取量が多い食生活に適応するように進化しており、炭水化物が豊富な食生活で進化した期間は0.2%未満なのです。

 人類が他の霊長類と分岐して以降、ほとんどの期間は、狩猟、採集、漁労などによって食物を得ていました。これを「狩猟採集社会(hunter-gatherer societies)」と呼びますが、狩猟採集社会では、摂取カロリーの45~65%は狩猟によって得た動物性食品で、残りが採集した木の実や果物や野菜や豆などでした。
 このような食事では、3大栄養素のカロリー比率は炭水化物が20~40%程度で、蛋白質が20~30%、脂肪が40~50%程度になると計算されています。
 こうした食事の内容が変わったのは、農耕が始まったとされる、今から約1万5000年前(日本では約2500年ほど前)のことです。農耕で穀物が安定的に得られるようになり、食事中の炭水化物のカロリー比率が上がり始めたのです。

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 また、摂取する炭水化物の質にも変化が起こりました。
 炭水化物が消化されてブドウ糖に変化する速さを示す数値に「グリセミック指数glycemic index)」があります。グリセミック指数の高い炭水化物は食後に血糖が上がりやすく、インスリンの分泌も増えるので『がんや動脈硬化を促進する作用』があります。
 豆やナッツや雑穀といった炭水化物はグリセミック指数が低い一方、精製した穀物などはグリセミック指数の高い炭水化物です。
 そして、中でも、とりわけグリセミック指数が高いのが「砂糖(スクロース)」です。
 砂糖は、腸液に含まれる「サッカラーゼ」という消化酵素によってブドウ糖と果糖(フルクトース)に分解され、小腸から吸収されて血中に入りますが、この反応は短時間で起こるため、血糖値を急激に上昇させてインスリンの分泌を促進するのです。
 近年は、消化吸収の効率や味を良くする目的で精製加工したり、砂糖を多く使ったグリセミック指数の高い食品が多くなっていますが、こうしたグリセミック指数の高い食品を摂取することでインスリンの分泌が増えるため、肥満や糖尿病やがんのリスクが高まることが明らかになっています。

グリセミック指数」につきましては、次の記事を参照してください。

    糖質は可能な限り減らす! - 福田一典 医師
     【 血糖値に関する「グリセミック指数」と「グリセミック負荷(ブドウ糖負荷)」の知識から
      『糖質の賢い摂取法』を見つめる!】


 「糖質制限食(ケトン食)」では「グリセミック指数」の低い食品を選択するのが基本です。
 この「グリセミック指数」に関しても留意されておいてください。よろしくお願いします
ブログ管理人


脂肪を多く摂っても、炭水化物が少なければ問題ない
 人口の増加を支えるために、安価で安定的に供給できる穀物(炭水化物)が主食になったと考えられますが、前述の通り、本来は、炭水化物よりも脂肪や蛋白質の多い食事のほうが人間にとって自然なのです。
 一般的には、脂肪の摂り過ぎが「がんのリスク」を高めると考えられていますが、これは、炭水化物の摂取量が多い、あるいは総摂取カロリーが高い場合に限ったことなのです。
 実際、脂肪と炭水化物の両方を多く摂っていると、摂取した脂肪が体内に蓄積して肥満や動脈硬化の原因となりますが、炭水化物の摂取が少ない場合は、脂肪はエネルギー源として積極的に利用されるのです。
 また、中鎖脂肪酸を多く含む脂肪(中鎖脂肪)を多く摂取すると、脂肪を多く摂取しても体内に蓄積されることはありません。
 この中鎖脂肪酸というのは、炭素数が8~12の脂肪酸で、分子が小さいため、消化管から効率的に吸収され、肝細胞のミトコンドリアに直接入って素早く分解され、大量のアセチルCoA を生じる特徴があります。
 このように中鎖脂肪酸はエネルギーとして燃焼される効率が高く、体脂肪として蓄積しにくいので、最近ではダイエットや健康に良い脂肪として急速に普及しています(くわしくは第6章で説明します)。


糖質の摂り過ぎががんを含む多くの病気の原因になっている
 動物実験では、高脂肪+高糖質の食事は「発がん率」を高めることが明らかになっていますが、高脂肪食でも低糖質であれば「がんの発生率」は高まらないことが報告されています。
 また、低糖質+高蛋白質食もまた、「発がん予防効果」を示すことが動物実験で明らかになっています。つまり「がんの発生」を促進する原因は糖質であり、糖質を減らせば、脂肪や蛋白質の多い食事でも発がんを促進することはないと言えるのです。
 実際、狩猟採集社会では「がんの発生」が少ないことが疫学研究で示されています。
 例えば、「エスキモーイヌイット)」の人々の伝統的な食事は狩猟によって得た生肉が中心であり、気候上農業ができないので野菜や穀類はほとんど食べませんが、彼らは、極めてがんを発生しにくいことが知られています。
 ところが、近年、米国の食文化が流入して伝統的な食文化が失われるにつれ、エスキモーたちの間で、がんや循環器疾患の発生が増えているそうです。
 こうしたことから考えると、やはり、糖質、特にグリセミック指数の高い糖質の摂取量が増えたことが、近代社会における「がんの増加」と関連性が深そうです。
 これは、グリセミック指数の高い糖質の摂取量が増えると、がん細胞の増殖を刺激するインスリンの分泌が増えるため、また、がん細胞のエネルギー産生は正常細胞に比べて何十倍もブドウ糖の依存度が高いので、糖質の多い食事は『がん細胞の増殖を促す』ためだと考えられます。
 このように、がんは「糖質の摂り過ぎ」が引き起こす病気と言っても過言ではないのです。
 なお、がんだけでなく、炭水化物中心の食事は認知症のリスクをも高めるという可能性が報告されており、その一例として、高齢者(年齢中央値79.5歳)を対象に、毎日の総カロリーにおける主要な栄養素の割合と認知症の発症との関係を調査した「前向きコホート研究)」があります。
最初に、病気になっていない人々の生活習慣などを調査し、この集団について将来まで追跡調査をすることで、のちに発生する疾病を確認する研究手法
 この研究では、炭水化物からのカロリー摂取率が高く、脂質および蛋白質からのカロリー摂取率が低い高齢者は、認知症の発症リスクが増加する可能性が示唆されたのです。
 また、高血糖や高インスリン血症は、交感神経を刺激して交感神経興奮状態を引き起こし、血圧上昇や睡眠障害やイライラなどの症状の原因になる可能性が示唆されており、さらに、こうした交感神経優位の状態は「酸化ストレス」を高める一方、免疫細胞の働きを弱め、「がんの発生」を促進することも指摘されています。
 この他にも、最近では、糖質の取り過ぎによる高インスリン血症が、心臓血管疾患、自律神経失調症、感染症、アトピー、アルツハイマー病、うつ病など、様々な病気の発症に関連していることが指摘されているのです。

 さて、章の最後になりましたが、ここで「炭水化物」と「糖質」の用語の使い分けを説明しておきましょう。
炭水化物carbohydrate)」は「単糖糖類の最小単位)」を構成成分とする有機化合物の総称で、代謝されてエネルギー源となる「糖質saccharides)」と、人の消化酵素で消化されない(したがってエネルギー源にならない)「食物繊維dietary fiber)」に分けられます。
 つまり、炭水化物は「糖質」と「食物繊維」からなるというわけです。
 そして、糖尿病やダイエットのための食事療法、また、本書で解説する『中鎖脂肪ケトン食療法』において摂取制限の対象になるのは、あくまで「糖質」だけです。ちなみに、英語の「low-carbohydrate diet低炭水化物食)」も、実質的には「糖質制限食」のことを指しています。
 一方、食物繊維はいくら摂取しても問題ありません。
 それどころか、食物繊維には腸内の乳酸菌を増やして腸内環境を良くするなど、様々な健康作用があり、食物繊維が少なければ便秘の原因にもなるため、「糖質制限食」を実践する際には、食物繊維の摂取量を積極的に増やすことも大切です。
 なお、糖質を含まず食物繊維を多く含む食材としては「キノコ類」や「海草類」などが挙げられます。

次の記事は「糖質制限食(ケトン食)」を実行する上で、どのような食品を選択すべきかがとても分かりやすくまとめられています。ぜひ、ご参考にされてください。

    大豆と糖質の少ない野菜・果物を多く摂取する - 福田一典 医師
     【 大豆イソフラボン、野菜や果物のフィトケミカル、アボカド、アブラナ科野菜、きのこ類、海草類、他‥ 】


 癌患者さんはこのような情報を参考にされて、癌を不要に育てて進行させてしまう糖質〔ブドウ糖〕を、極力、制限していきましょう! ここは、癌治療の命運を分ける重要なところです。癌治療における「糖質制限食(ケトン食)」の価値について、よくよくご理解されてください。よろしくお願いします
ブログ管理人


    引き続き「ブドウ糖を絶てば、がん細胞は死滅する!②」記事をご覧ください。