(末期癌患者の)食欲低下について
 【「知っておきたい緩和ケアのツボ」
より 】


 食欲が減ってくるのには、いくつか理由があると言われる。一つは、がんに栄養を与えないように自分で絞っているという理由。二つ目は、体力が減るにつれて内臓が受け止められる栄養の量も減っているので、必要な量が減っているという理由。これをまとめて、「悪液質」という観点から合理的に説明した文があるので、引用しておく。



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 これまでは、悪液質とは単に体の状態が悪いことを表していると考えられていた。しかし最近の研究で、悪液質にも意味があることが示唆されている。

  悪液質では食思不振を伴うことが多いが、これを代謝の面から見ると、外から入るカロリーを制限することによって肝臓での糖新生を促すことになる。また、悪液質では血中インスリン濃度は低下しグルココルチコイドは増加している。この条件下では、末梢組織は血中ブドウ糖を活用しづらい。これに対して脳組織で使われるエネルギーはブドウ糖に限られ、活用にはインスリンを必要としない。つまり悪液質とは、末梢組織を犠牲にしても脳は保護しようという一種の防衛反応であるといえる。また、癌組織も末梢組織の性質を持っているので、悪液質は癌組織の活発な代謝と増殖を抑える方向に働く。つまりこれも、癌の増殖を抑えようという防衛反応であると考えることができる。

  実験結果でも、高カロリー輸液によって悪液質が解消されると、癌組織の増大は急激に早まることが報告されている。また、漢方薬で悪液質が改善した後に腫瘍マーカーが急激に増加した例も報告されている。

  悪液質を保持しようと人体はさまざまなサイトカインを放出している。ここに強制的に栄養を補充すると、悪液質のバランスが崩れ、患者の全身状態は悪化することが多い。このため、末期癌患者には高カロリー輸液は行わない方がよいとする見解が、緩和ケアの世界では常識となりつつある。つまり、高カロリー輸液をおこなってもあまり意味がないのでやめるというような消極的中止ではなく、高カロリー輸液は末期癌患者の体にとって有害であるので、投与カロリーを減らすべきであるという見解である。

  代謝できるカロリーが減少していることと並行して、体が出納を管理できる水分量も減少していることが多い。過剰な水分は浮腫や肺水腫などに直結する。このことから、末期癌患者に対する補液も、可能な限り少量にとどめるべきである。具体的には輸液は一日500ml 程度とし、高カロリー輸液が必要な場合にも1号液1本程度にとどめておくのが患者の意識を最後まで清明に保ち、無用な症状を出現させないための必要条件である。

  浮腫、喘鳴、腹水や胸水の増加が見られる時には、その時におこなっているのがどんなに少量の補液であっても、「補液が症状を増悪させる原因」になっているので、さらに減量した方が楽に過ごせる場合は多い。これは「やってもしょうがないからやめる」という消極的な選択ではなく、「より楽な状態で過ごすには、減らした方がよい」という積極的な選択であることを説明すると、納得が得られることが多い。